黒い男の夢とばあちゃんの最期
これは、病気で入院しているばあちゃんを、親戚揃って見舞いに行ったときの話。
実際、ばあちゃんの容体は芳しくなく、それは見舞った全員がすでに知っていた。
ばあちゃん本人がどこまで自分の状態をわかっていたのかは、俺にはわからない。
そんなとき、従兄弟が急にばあちゃんにしがみついて泣き出した。
それも、子供が泣きじゃくるように、わんわんと。
みんな焦っていた。
まるで、ばあちゃんが今にも死んでしまうとでも言わんばかりの騒ぎだからだ。
なんとか落ち着かせようとすると、従兄弟は泣きながら「自分のせいでばあちゃんが死ぬ…」と言い出した。
訳がわからないまま詳しく聞いてみると、それは夢の話だという。
普通の日常的な夢を見ていたら、唐突に『黒い男』が現れて質問をされた。
道でも尋ねるような自然さに、従兄弟はつられるように答えてしまったらしい。
「近々、死んでしまう者の心当たりはないか?」
「ばあちゃんのこと?」
目を覚ましてから、なんてことをしてしまったんだろうと後悔した。
日々、病状が悪くなっていくばあちゃんの様子を見て、あの男は死神だったのではないかと思うようになり、とうとう耐えきれなくなったのだと。
どうにも扱いに困る親族たちをよそに、ばあちゃんは従兄弟の背中を精一杯さすりながら、「大丈夫、大丈夫」と声をかけ、「その男の夢なら、ばあちゃんも見たことがあるんだよ」と話し始めた。
それから何日かして、ばあちゃんは亡くなった。
あのばあちゃんの言葉を、俺を含め親戚みんな、どう捉えていいのかわからずにいる。
従兄弟を安心させようと、ばあちゃんが咄嗟に話を合わせたのかもしれない。
今のところ、黒い男が俺の夢に出てくることはないままだが…。
(終)
AIによる概要
この話が伝えたいことは、いくつかの解釈ができると思います。
一つは、死を前にした人と残される人との間にある、不思議なつながりや心の交流です。ばあちゃんが本当に「黒い男」の夢を見たのか、それとも従兄弟を安心させるために話を合わせたのかはわかりません。しかし、ばあちゃんは従兄弟の不安を和らげるように優しく語りかけ、最後まで家族を思いやっていました。その姿は、死を迎える人の強さと、残される人への深い愛情を感じさせます。
また、人は「偶然の出来事」に意味を見出そうとする生き物であり、それが心の支えや恐れになることもあるということも伝わってきます。従兄弟は何気なく答えただけの夢の中の会話を、自分のせいでばあちゃんが死ぬのではないかと受け止め、強い罪悪感を抱きました。その一方で、ばあちゃんの「私も見たことがある」という言葉は、その偶然をただの偶然ではなく、何か受け入れがたいものを和らげるような意味に変えたのかもしれません。
さらに、この話には「死の予兆」というオカルト的な要素も感じられます。黒い男の存在が本当に何かを暗示していたのか、それとも単なる夢だったのか、答えは出ません。しかし、ばあちゃんが亡くなったあとも「黒い男が自分の夢にはまだ出てきていない」と語る語り手の言葉には、死に対する漠然とした不安と、いつかは自分もその夢を見る日が来るのではないかという、わずかな予感がにじんでいるように思えます。
全体を通して、この話は「死」という避けられないものに対する人々のさまざまな感情を描いています。恐れ、悲しみ、罪悪感、優しさ、そして不思議な巡り合わせ。それらが交差しながら、ばあちゃんを中心に親族の心が揺れ動く様子が語られているのだと思います。