事故現場を見てからの異変の数々
現在進行形なんだが、誰か助けてくれ。
半年ほど前のこと。
仕事を終えて車で帰る途中、大きな事故現場に遭遇した。
「ああ、これは助からないな」
そう思うほどの惨状で、今でも鮮明に覚えている。
それがきっかけなのかはわからない。
だが、事故現場を見た数週間後の休日、子供と部屋で遊んでいると、不意に『何か』がドアの前を横切った気がした。
その直後、子供がドアの方向を指さして、「オニ、オニ」と言い出した。
うちの子は、怖いもの、例えば漫画の妖怪や怪獣なんかを見ると、決まって「オニ」と呼ぶ。
ゾッとしたが、気のせいだろうと自分に言い聞かせた。
子供もすぐ遊びに夢中になったので、深く考えないことにした。
それから数週間後。
風呂上がりにリビングへ向かおうと、その部屋の前を通りかかったときのこと。
ドア越しに鏡が見える。
ふと目をやると、体は俺なのに、顔だけが女になっていた。
「…ん? 今のは?」
慌てて二度見したが、すでに元通り。
不安になって妻に話すと、次の日にはその鏡を捨てていた。
さらに数週間後。
前夜に深酒をしてしまい、風呂にも入らず寝てしまった。
翌朝、シャワーを浴びていると、突然、風呂場のドアが開く。
妻が携帯を手に立っていた。
「ちょっと、朝から電話してこないでよ」
「はあ?」
何を言ってるのかわからず、妻が持つ画面を覗き込んだ。
そこには、俺の名前。
「ちょっと待て。俺は今風呂にいるんだから、どうやって電話かけるんだよ?」
そう言うと、妻もハッとした顔になり、「…じゃあ、これ誰?」と困惑していた。
ビビりな俺たちは、結局電話に出ることもできず、ひたすら切るボタンを連打するだけだった。
後日、妻の知り合いに霊感が強い人がいるということで、家を視てもらった。
その人は言った。
「生霊がいるね」
生霊…。
「それ、一番ヤバいやつじゃないのか?」
そう尋ねると、「でも、この生霊はそんなに悪い霊じゃないよ」と言われた。
信じられなかった。
霊なんて非科学的なもの、今まで一度も信じたことがなかった。
だが今日、会社の同僚から電話がかかってきたときのこと。
仕事中で出られなかったので、後で折り返すと、開口一番こう言われた。
「お前、最近身の回りでなんか起きてない?」
色々あったが、説明するのも面倒だったので「別に何もないけど、どうした?」と返す。
返ってきたのは、衝撃的な言葉だった。
「トイレに行こうとして窓から駐車場を見たら、お前の車が止まっててさ、中に誰か乗ってたんだよ」
「はあ?」
「最初は、お前が仕事終わって早く帰ってきたのかと思ったんだけど、よく見たら、乗ってたの女の人っぽくって」
「ん?」
「嫁さん迎えに来てたのかな?って思って近づいたんだけど、その瞬間、フッと消えたわ」
その後、会社でちょっとした騒ぎになり、気を利かせた同僚が言った。
「一応、車の周りに塩、盛っといたから」
…いやいやいや。
今日、どうやって車に乗って帰ればいいんだよ。
明日は家族で出かける予定なのに、どうするんだよ。
誰か、本当に助けてくれ。
(終)
AIによる概要
この話が伝えたいことは、語り手が事故現場を目撃したことをきっかけに、次々と奇妙な出来事に巻き込まれていく恐怖と困惑、そして「本当に何かがいるのではないか」という不安感です。
最初はただの気のせいかと思っていた違和感が、子供が「オニ」と指さしたり、鏡に映る自分の顔が変わっていたり、ありえないタイミングで自分の名前から電話がかかってきたりと、次第に無視できない現象へと発展していきます。
さらに、霊感のある知人から「生霊がいる」と言われても半信半疑だった語り手が、会社の同僚から「お前の車に誰かいた」と言われたことで、これまでの出来事がすべて一本の線で繋がり、避けられない現実として突きつけられます。
そして最終的には、半ば冗談めかしながらも「どうすればいいのか」と切実な恐怖を吐露し、読者にこの不可解な状況の行方を想像させる形で物語が締めくくられています。
つまり、現実と怪異の境目が曖昧になり、次第に追い詰められていく語り手の心理と、得体の知れない何かが確実に存在しているかのような不気味な空気感が、この話の伝えたいことだと言えます。