雪山で出会った夏服の女 2/2

(前編)雪山で出会った夏服の女 1/2

 

天候はドンドン悪化して、

吹雪のようになってきました。

 

ポールを持って立っている

Aの姿も見にくいし、

アッという間に降り積もる雪で、

小径もわかりづらくなってきました。

 

携帯も圏外になっていました。

 

俺は焦ってきて、

一刻も早く山を下りたい一心で、

コンパスを据え付けました。

 

レベルもろくに取らずに、

Aの方に望遠鏡を向けようとして

そっちを見ました。

 

すると、さっきの女が

Aのすぐ後ろに立っていました。

 

今度は前を向いているようですが、

吹雪のせいで、よく見えません。

 

Aは気付いていないのか、

じっと立っていました。

 

「おーい!」

 

俺が声をかけても

Aは動こうとしません。

 

すると、女のほうが

動くのが見えました。

 

慌てて望遠鏡をそっちに向けて、

ビビリながら覗くと、

女は目を閉じてAの後ろ髪を掴み、

後ろから耳元に口を寄せていました。

 

何事か囁いているような感じです。

 

Aは逃げようともしないで、

じっと俯いていました。

 

女はそんなAに囁き続けています。

 

俺は恐ろしくなって、

ガクガク震えながら

その場に立ち尽くしていました。

 

やがて女はAの傍を離れ、

雪の斜面を下り始めました。

 

すると、Aもその後を追うように、

立木の中へ入って行きます。

 

「おーい!A!何してるんや!

戻れー!はよ戻ってこい!」

 

しかしAは、

そんな俺の声を無視して、

吹雪の中、

女の後を追いかけていきました。

 

俺は測量の道具を放り出して、

後を追いました。

 

Aはヨロヨロと、

木立の中を進んでいます。

 

「ヤバイって!

マジで遭難するぞ!」

 

このままでは自分もヤバイ。

本気でそう思いました。

 

逃げ出したいっていう気持ちが

爆発しそうでした。

 

周囲は吹雪で真っ白です。

それでも何とかAに近づきました。

 

「A!A!しっかりせえ!

死んでまうぞ!」

 

すると、Aがこっちを振り向きました。

 

Aは虚ろな目で、

あらぬ方向を見ていました。

 

そして、全く意味のわからない言葉で

叫びました。

 

「********!********!」

 

口が見たこともないくらい

思いっきり開いていました。

 

本気で下あごが胸に付くくらいに。

 

舌が垂れ下がり、

口の端が裂けて、

血が出ていました。

 

あれは完全に、

アゴが外れていたと思います。

 

そんな格好で、

今度は俺の方に向かってきました。

 

「・・・********!****!」

 

それが限界でした。

 

俺は、Aも測量の道具も

何もかも放り出して、

無我夢中で山を下りました。

 

車の所まで戻ると、

携帯の電波が届く所まで走って、

会社と警察に電話しました。

 

やがて捜索隊が山に入り、

俺は事情聴取されました。

 

最初はあの女のことを

どう説明したらよいのか悩みましたが、

結局見たままのことを話しました。

 

警察は淡々と調書を取っていました。

 

ただ、『Aに女が何かを囁いていた』

というところは、

繰り返し質問されました。

 

翌々日、

遺体が一つ見つかりました。

 

白い夏服に黒髪。

 

俺が見たあの女の特徴に

一致していました。

 

俺は警察に呼ばれて、

あの時の状況について

また説明させられました。

 

その時に警察の人から、

その遺体について、

色々と聞かされました。

 

女の身元は

すぐにわかったそうです。

 

去年の夏に、

何十キロも離れた町で

行方不明になっていた

女の人でした。

 

ただ、

なぜあんな山の中に

居たのかはわからない、

と言うことでした。

 

俺はあの時のことは

もう忘れたいと思っていたので、

そんなことはどうでもエエ、

と思って聞いていました。

 

けれど、

一つ気になることがありました。

 

女の遺体を調べたところ、

両眼に酷い損傷があったそうです。

 

俺は、Aのヤツそんなことをしたのか、

と思いましたが、

どうも違ったみたいで、

その傷は随分古いものだったようです。

 

「目は全然見えんかったはずや」

 

警察の人は、そう言いました。

 

結局、Aの行方は、

今でもわかっていません。

 

残された家族のことを考えると、

Aには生きていて欲しいとは思いますが、

 

あの時のことを思い出すと、

正直なところ・・・

もう俺はAに会いたくありません。

 

ただ何となく嫌な予感がするので、

先週、髪を切って坊主にしました。

 

(終)

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