自然相手の職業は縁起を担ぐ
これは、長野県に出張した時の話。
目的地の最寄り駅からタクシーに乗った。
すると運転手さんが、「今日は山が動いてるから明日あたり危ないかもしれん」と言い出した。
山が動く?どういうことだ?
疑問に思って聞いてみると、土砂崩れなどの前には山が動くらしい。
ただ、普通の人にはその動きは見えないそうだ。
なんでも、その運転手さんは以前に何年もトンネル掘りや山で働く仕事をしていたらしく、「山で働いているとそういうことがわかるようになる」とも言っていた。
他にも、「山で汁物をご飯にかけてはいけない」だとか、「山の神様の日に山仕事はしてはいけない」だとか、色々話してくれた。
あとがき
色々な説はあるが、山で汁物をご飯にかけてはいけないのは、「盛ったご飯が汁物で崩れるのが土砂崩れを連想させるから」。
他にも、ねこまんまをする時は、「ご飯に味噌汁をかけるのではなく、味噌汁にご飯を入れる」とか。
理由は、米農家では「お米に味噌汁をかけるのは水害を連想させるから」だそうで、貨物船等の従事者では「船が浸水するのを連想させるから」だとか。
山や海といった自然相手の職業では、特に縁起を担ぐ。
家族がするのは単なるゲン担ぎでも、現場の者がするのはルーティーンみたいなもので理にかなっているのかもしれない。
山や海といった人間の力が及ばないところで仕事をする時は、本当に最後の最後は運が自分の命を左右する。
きっと、ゲン担ぎやおまじないで積み重ねたものが大事なんだろう。
ただ、こうしたゲン担ぎの多くは理由を忘れ去られ、形だけ残っているものが数多くある。
山や海に行ってその土地に決められているルールがあるのなら、やはり守るべきである。
『郷に入れば郷に従え』だ。
(終)