廃村を探しながら歩いていると
これは、部活の顧問から聞いた不思議な体験をした話です。
若い頃に一人で山に登った時のことでした。
その山は中国山地にあり、昔は村や集落が多くありました。
しかし今では過疎化が進んで廃村になっているところが多く、そういった廃村などを写真に残そうと思って行きました。
昔の地図と今の地図を見比べ、廃村を探しながら歩いていると、道の跡のようなものを見つけました。
ここを行けば廃村があるかも?
そう思って道を辿っていると、ちょっと開けた場所に出ました。
そこには立て札があり、目指していた廃村の名前とそこまでの距離が記されています。
もう少しだな・・・と思い、距離と方向を確認して、再び歩き出しました。
しばらく歩くと、雑草に覆われていた道がちゃんとした道になり、まるで誰かが整備しているような感じでした。
もうしばらく歩くと、村が見えました。
ただ、そこは廃村ではなく普通の村でした。
おかしいなあ?今年の地図には村は載ってないのに・・・。
少し不思議に思いながらも、目的の村に到着しました。
家や建物があり、道路には砂利が敷かれており、明らかに廃村ではなさそうな感じです。
廃村かと思っていただけにガッカリして、とりあえず散策するかと村を歩いてみました。
そうすると、次第に変だな?と思い始めました。
村に人が全くいないのです。
生活感はそこら中にあるのに、誰にも会いません。
その日は日曜日なのに、出歩いている人がいません。
村を一望できる所に行けば人が見えるかもしれない・・・。
そう思って、地図に載っていた高台にある神社へ行くことにしました。
その神社は村から少し離れており、また村を観察するにはちょうどいい場所にありました。
石段を登って境内に着くと、女の子が1人いました。
やっと村人に会えたのです。
さっそく女の子に話しかけようとすると、先に女の子が話しかけてきました。
「おまえ、外の人間か?」
お前、と呼ばれたことに少し戸惑いましたが、「そうだよ。町からこの村に来たんだ。ここは人が住んでいるの?」と聞き返しました。
すると、「いいや、ここは廃村だ。だから、すぐ帰れ。昼になると大人が帰ってくる。そうしたら、お前はここから帰れなくなる」と。
「どういう意味?」と尋ねてみたのですが、女の子は首を振り、「いいから、帰れ。お宮の裏の道を行けば帰れる。早く帰れ」と。
とにかく帰れと真剣な顔で言われ、その女の子が言った道を使って村から出ました。
変な子供だなあ・・・と思いながら歩いていると、いつのまにか元の道に戻り、そのまま出発した麓まで戻ってきていました。
後日、その村について調べてみたそうですが、昭和の半ばに過疎化により廃村になり、以後そのままということがわかったそうです。
そんなことがあっても、顧問は廃村巡りをやめませんでした。
その話を聞いた後、私は「そんなことがあったのに、やめないんですか?」と聞くと、「山中異界って言うじゃろう?どこの山も不思議なことはあるんだ」と言っていました。
(終)