怖がり神田さんの悲劇とその後
これは、高校の修学旅行の時の体験話。
夜ご飯も食べ終えた夜の自由時間、ホテルの大部屋に15人くらいの女子で集まり、百物語のように順番に怖い話をすることに。
そのメンバーの中に1人、違うクラスの子でほとんど喋らないおとなしい神田さんがいた。※仮名
怖い話をするよとみんなが大盛り上がりしていた時から、神田さんは「やめようよ、帰っていい?」と、ごにょごにょ言っていた。
しかし、みんな神田さんが怖がっているのを見て面白がり、帰らせないようにして話を始めた。
話している間も、神田さんは耳を両手で塞いで震えている。
それを私は横目で見ながら、「だらしないな~、演技しちゃって」と、ちょっとイライラしていた。
そして5人くらいが話し終わった頃、だんだんと神田さんが変になってきていることに私は気づいた。
震えが横にいる私にもはっきりと伝わるようになってきて、小さい声で「やめて…もうやめて…」と何度も何度も言っている。
さすがにヤバいかな、演技ではなく本当に怖いんだと思って、話を中断させて「神田さんを部屋に帰してあげようよ」と、みんなに言った。
しかし、テンションの上がっているみんなはそんな震える様子を見て余計に面白がり、帰そうとはしなかった。
話を再開し、さらに3人が話し終えたところで、とうとう大変なことになってしまった。
怖がっていた神田さんの震えが一瞬おさまり、あれ?と思った直後、全身を激しく痙攣させ始め、頭を床に付けるように前屈みに突っ伏し、「やめろお!!!」と絶叫した。
その途端、みんなは大パニックに陥った。
なぜなら、神田さんの叫んだ声が“低い男の声”だったから。
部屋中が悲鳴だらけで、物凄い状況になっていた。
私は何とか部屋の電気をつけて神田さんを見ると、口から泡を出し、白目をむき、ガチガチと痙攣していた。
これはヤバいと思い、走って先生を呼びにいった。
部屋から出てすぐ、さっきの悲鳴を聞いてか、こちらに向っていた先生とばったり会った。
そして、すぐに神田さんは救急車で運ばれていった。
その頃にはみんな少し落ち着き始めていたが、先生たちに事情を説明することが出来たのは私だけで、他のみんなは一言も喋らずにずっと下を向いていた。
その後、30分ほど全員説教された挙句、1時間ほど廊下で正座をさせられた。
次の日、神田さんはケロッとして旅行に参加していた。
ただ、あの場にいたみんなは明らかに神田さんを避けていた。
私は神田さんに「昨日は大丈夫だった?」と聞くと、「それが、怖い話が始まってすぐに気を失ったみたいで、なんにも憶えていないの。気づいたら病院だった」と答えた。
その時、改めてゾッとした。
もしかして私が異変に気づき始めた時には、すでに神田さん本人ではなかったということなのか?
なんだか無性に怖くなり、結局それ以降、卒業まで神田さんと話すことはなかった。
(終)