押し入れの御札を剥がしたせいで
これは、友人の体験談。
アパートに部屋を借りた。
古い建物を改装したアパートだったが、リフォームがしっかりしてあり、かなり綺麗だった。
借りたのは最上階の部屋で、室内は広くて天井も高く、開放感もある。
主要線の駅からも歩いて行けるくらい近く、商店なども整っており、凄く条件が良い物件。
それなのに、家賃はそれほど高くない。
というより、むしろ安いくらい…。
そこに入居してしばらく経った頃、嫌な部分を1つ発見した。
和室の押入れの上部に小さな棚があって、そこの奥天井に1枚の『御札』が貼られているのに気づいた。
友人は心霊だとかその手のことには鈍感で、気味が悪いとは思いつつ、その御札を剥がして捨てた。
それ以降、部屋にいる時に変な電話がかかってくるようになった。
しわがれた年配の女性の声で、呟くように繰り返す。
「こちらはあたしの家じゃないかねぇ」
友人はいたずら電話か痴呆老人の仕業かと思い、対応も適当に電話を切った。
だが、その電話は時折かかってきた。
日を置いて幾度も、同じ老女から、同じ内容で。
終いには辛抱しきれなくなった友人は、「この部屋は俺のもんだ!」と怒鳴りつけた。
すると、震えた声で「…ここはあたしの家だよぅ」と返ってきたきり、電話は切れてしまった。
その夜、友人は息苦しさに目を覚ました。
身体が動かない。
すぐに金縛り状態であることに気づいた。
動けないまま目を凝らしていると、次第に目が暗闇に慣れてくる。
その時、顔にぽたりと何か雫のようなものが降りかかった。
すぐ頭上の天井に目を向けると、真っ白なはずの天井に黒いシミが出来ており、そこから雫が垂れているようだった。
みるみるシミは広がっていき、垂れてくる雫の量も増えてきた。
生臭い、金属臭いニオイに、その雫が『血』であると思った瞬間、天井のシミの中から何かが自分に目がけて降ってきた。
ドサドサ、バラバラと重みのある物体が、顔といわず身体に降りかかった。
恐怖に身を強張らせていると、顔の真横に生臭い空気を感じた。
視線を向けると、真っ黒な塊。
人の首が自分の顔の横にあり、それが耳元で口を開く。
「ここはあたしの家だよぅ」
あの電話と同じ、しわがれた声で。
翌日、友人はすぐその部屋を引き払った。
「もうあんな所には住めない」と訴える友人を不動産屋は問い質すこともなく、即時引き払いに応じた。
後日、友人はその部屋やアパート、改装以前の建物の来歴を調べた。
十数年前、その建物はある資産家の老女の持ち物だった。
しかし、その老女は欲に目の眩んだ身内によって殺されてしまったという。
ただ、なぜ友人の借りた部屋に老女は現れたのか…。
明確な理由は今でもわからない。
(終)