葬式の夜に犬を借りなかった代償
これは、私が小5の時の体験話。
祖母が亡くなったので、島根にある母の実家に帰っていた。
死因は老衰。
みんな悲しかったけれど、「長い間ありがとう」という気持ちで穏やかに葬儀が執り行われた。
そして、その夜はお決まりの宴会が始まる。
もう夜もだいぶ更けた頃、ある50代くらいの男性が「帰る」と言い出した。
ただ、その時の叔父さんの言葉は不思議なものだった。※叔父さん=母の兄
「犬を貸そうか?」
その男性は「いや、いいよ」と返し、帰路に着いた。
しかし30分後、男性は慌てた様子で帰ってきた。
そして、「ダメだ、狐が多くて帰れねぇや。今夜は泊めてくれよ」と言う。
「だろうと思った」
「・・・?」となる私。
間もなくして、今度は別の男性が席を立った。
「帰るわ」
「やめとけって。特にお前んちは山を越えるだろ。今夜はやめとけ」
「いや、明日も早えぇからよ。犬もいいや」
「気をつけろよ」
後で聞いた話、その男性は魚屋だったそうで。
翌朝、私は騒々しさに目が覚めた。
時計はまだ6時にもなっていない。
「▲▲が死んだってよ!すぐ行くぞ!」
そんなことを言っているのが聞こえる。
私は訳がわからないまま叔父と父に付いて行く。
すると、その家から歩いて10分程のところにある田んぼに、魚屋の男性がうつ伏せに倒れていた。
それに田んぼには、ぐるぐる歩き回ったような足跡が円を描いていた。
手に持った葬式饅頭には、何か動物の爪に引っ掻かれたような傷がある。
「ああ、大人しく狐に饅頭やらんから」
「化かされたか。だから犬を連れてきゃ良かったのに」
周りの大人たちは口々にそんなことを言っていた。
私はといえば、何もわからない怖さでずっとブルブル震えていただけだった。
(終)