943号室からの死の電話

内線電話

 

これは、添乗員をしている古田さんから聞いた話です。※仮名

 

とあるホテルでの出来事。

 

古田さんがフロントで精算をしていた時のこと。

 

フロント係の男性が内線を取った瞬間、その男性が血の気が引いたのが古田さんにもわかるほどだった。

 

男性は無言のまま受話器を置いた。

 

間を置かず、古田さんは男性に「すみません、精算を続けて下さい」と声をかけた。

 

しかし、男性は放心状態のように突っ立ったまま。

 

疲れていた古田さんは早く終わりたかったので、つい大声で「すみません!」と叫んでしまった。

 

フロント係の男性は、ふと我に返ったように「あ、すみません…」と言うと、事務所の中へ入っていった。

 

代わるように、女性のスタッフが顔を引きつらせながら「お待たせしました」と、古田さんの精算を始めた。

 

そうして5分ほど過ぎた頃だった。

 

2人のお客さんが凄い勢いで「上から人が落ちた!」と、フロントに飛び込んできた。

 

「えっ?まさかうちのツアーのお客さん?」と思った古田さんは、いつのまにか飛び込んできた2人に問いかけていた。

 

「何号室の人?」

 

そんなやり取りをしていると、さらに4人ほどのお客さんが「上から人が!」と叫びながら走って来た。

 

もう、フロントの前は大騒ぎの状況だった。

 

そして今度は7人ほどのお客さんが叫びながらフロントに飛び込んできた。

 

やっぱり人が落ちたと言う。

 

その後、そのお客さんらの部屋は、343号室、443号室、543号室、643号室とわかった。

 

しばらくして、フロントの奧から支配人らしき男性が出てきて、「落ちた人は誰もいません」と説得していたが、みんなが「この目で見た」と騒いでいた。

 

支配人はこの声に負けたように、「わかりました。では落ちた場所へ行ってみますか?」と言って、お客さんらを引き連れて現場と思われる場所へ向かった。

 

古田さんも一緒に行きたかったが、自分のお客さんらが大丈夫か気になり、部屋を周って確認することを優先した。

 

そうしてお客さんらの無事を確認した古田さんは、再びフロントに戻ってきた。

 

その時にはフロントは正常業務に戻っていた。

 

「どうなったんですか?」と聞いたが、「誰も落ちていませんよ」と言われ、そのまま精算を済ませて部屋へ一旦戻った。

 

その後、お風呂に入って夜ご飯を食べてから部屋へ戻ったが、さっきの騒ぎが気になった。

 

そこで、先輩の添乗員にメールを送った。

 

早速、返事があった。

 

『知り合いの人がそこのホテルで働いているから聞いてみる』とのこと。

 

しばらくすると携帯が鳴った。

 

先輩からで、このホテルのこんな話を教えてくれた。

 

8年前にフロントへ、「今から飛び降りて死にます」と言う電話があり、その後その女性が飛び降りて即死したという。

 

部屋番号は943号室からで、この日が飛び降りた日だった。

 

ちょうど古田さんがフロントで清算中に、フロント係の男性が内線の受話器を取った時、943号室から「今から飛び降りて死にます」との電話があった。

 

(終)

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