2人を連れて行った春の記憶
私が幼稚園の時、友達にさっちゃんという子がいました。※仮名
また、さっちゃんには年の離れたお姉ちゃんがいました。
確か中学生くらいだったと思います。
セーラー服を時々着ていたのも覚えています。
お姉ちゃんはとても優しくて、よく私たちと遊んでくれました。
ある冬の日、さっちゃんの家へ遊びに行った時に、お姉ちゃんが私に声をかけてきました。
「次か、次の次の日曜日って、どこか家族で行くとかある?」
「何もないよ」
「じゃあ、きっとお姉ちゃんに会いに来てね」
「何で?」
「お姉ちゃんね、桜が咲く前に死んじゃうの。さっき表にいた黒い服の人が教えてくれたの。
お姉ちゃんね、怖いからヤダって言ったんだけど、黒い服の人が桜が咲いたらさっちゃんも来るから怖くないよって。
でもさっちゃんにこのことは言わないでね。さっちゃんはあなたと遊べなくなるの寂しがると思うから」
そしてお姉ちゃんは「指切りしよっ」と、小指を出してきました。
私は、されるがまま指切りをしました。
その日、家に帰ったら、親に「小指どうしたの?」と言われました。
いつの間にか、お姉ちゃんと指切りをした小指が紫色になっていたのです。
その翌週くらいだったと思います。
私はさっちゃんの家へ行くことになりましたが、お姉ちゃんが交通事故に遭って亡くなりました。
数日後、黒いワンピースを着て、お姉ちゃんのお葬式に行きました。
お姉ちゃんはセーラー服を着た写真で祭壇の中にいました。
親と焼香をした時に、お姉ちゃんの声で「内緒だよ。約束だよ」と聞こえました。
私は無意識にうなずいていました。
その春、私もさっちゃんも卒園でした。
私はさっちゃんと別の小学校へ行くことになりました。
卒園式が終わって、さっちゃんがバイバイしたのを見たのが最後です。
さっちゃんは入学式の前に火事で亡くなりました。
その時に私は、さっちゃんが死んだのが悲しいというよりも、「お姉ちゃんと一緒だから寂しくないよね。いいなあ、私は小学校から一人ぼっちなのに」と思ったのを漠然と覚えています。
怖いのは、さっちゃんのお姉ちゃんが会ったと言っていた黒い服の人よりも、人が死んでも悲しまない私かもしれないと、お姉ちゃんより大きくなった今ふと思ってしまいます。
(終)