明かりが消えるたびに
2年ほど前から、都内のある沿線のマンションに住んでいます。
間取りは2Kで南向き。
玄関を入るとすぐにキッチンがあり、その奥に2部屋という、ごく普通の構造です。
玄関からみて手前を居間、奥を寝室として使うと、ちょうど良い具合の物件です。
ただ、住み心地は良いのですが、電車が通過する影響なのか、明かりが消えることがあるのです。
電車の音が聞こえると、ふっと明かりが消えて、数秒後にはまたつきます。
勝手につくということは、ブレーカーが落ちているわけではありません。
最初は驚きましたが、特に気にすることもなく過ごしていました。
だいたいその時間は入浴中なので、電車の通過音も気になりませんし、「配線が老朽化しているのかな?」と軽く考えていました。
ところが、その日はたまたま仕事が遅くなり、普段なら入浴している時間に食事の準備をしていました。
時計が0時7分を指す頃、電車の音が聞こえ始め、いつものように明かりが消えました。
普段は風呂場で経験している現象がキッチンで起こると、なんとなく不気味に感じたのです。
だからでしょうか、何気なく真っ暗な居間に視線を向けてしまいました。
何があるとも知らずに…。
そこには『人の形をした何か』がいました。
暗闇の中で輪郭が浮かび上がり、確かに人の形をしています。
ただの影に見えるのに、その場に存在感を持っているようで、なんとも言えない奇妙な感覚に襲われました。
すると、僕の存在に気づいたのか、影は大股でこちらに歩み寄り、右腕を伸ばしてきました。
その瞬間、蛍光灯がつきました。
明かりの下には何もなく、いつも通りのフローリングの廊下と開け放たれた居間があるだけです。
でも、黒い影は今も僕の部屋にいます。
どうやら居間と廊下の間しか行き来できないらしく、風呂場やトイレにいれば遭遇しません。
時々、すぐ逃げられるよう準備をしてから廊下で待つと、いつもの明かりが消える時間に影と遭遇できます。
今のところ対処法がわかっているから良いのですが、もし泥酔して帰って、そのまま捕まってしまったら…。
そう思うと、少しゾッとします。
(終)
AIによる概要
この話が伝えたいことは、「日常に潜む不可解なものや不安とどう向き合うか」です。語り手は不可解な現象や”影”の存在に直面しながらも、それを完全に解明することなく、受け入れつつ生活を続けています。未知や恐怖に対する適応力や、日常の中にある非日常への静かな共存がテーマとなっています。また、不安を抱えながらも工夫して前向きに対処する姿勢が、読者に共感や考えさせられるものを与えています。