ルールを軽視すると予期せぬ結果を招く
これは、東京のある美術大学で起こった話。
その日は授業の中で、町の景観をカメラに収め、写真のフィルムを現像する時間があった。
現像する際に使用する『暗室』という部屋があり、そこは光が一切入らないように設計された場所だ。
暗室の構造は次の通り。
まず、暗室へのドアを開けると、そこにはL字型の通路があり、その角を曲がるともう一つドアがある。
そのドアを開けると暗室の中に入れる仕組みになっている。
外からしか鍵をかけられず、内側に鍵はない。
また、L字型の通路も暗いため、出入りの際は必ず「入ります」と声をかける決まりになっていた。
これは、向こうから来る人との衝突を防ぐためである。
ある日、友人の山下は暗室での授業に遅刻してしまった。
その際、山下はL字型の通路に入るとき、「入ります」と声をかけずに中に進んだ。
すでに授業が始まっており、暗室から人が出てくることはないだろうと思ったからだ。
しかし、L字型の通路を進み、角を曲がった瞬間、左肩が誰かとぶつかってしまった。
「あっ」と思い振り返り、「すみません」と謝ったが、相手からの反応はなかった。
その時、山下は「トイレに急いでいる人だったのだろう」と思ったという。
山下は人懐っこく、目上の人に対しても敬語をあまり使わない性格だった。
しかし、先生や先輩からはよく慕われており、よく一緒に遊びに行く間柄だった。
夏休みには先生たちと旅行に行き、その夜に怖い話をする流れに。
そこで聞かされたのが、暗室にまつわる話だった。
先生はこう語った。
「山下、この話は生徒に話すなよ」
暗室前のL字型通路に入る際、「入ります」と声をかける理由は二つあるという。
一つは、向こうから来る人とぶつからないようにするため。
そしてもう一つは、L字型通路にいる霊に対して行動を促し、霊を退けるためだ。
声をかけないと霊と遭遇してしまうという。
この学校の暗室では、かつて事故が起こった。
女子生徒が一人亡くなっている。
その日は夏休み前日。
その女子生徒は暗室で作業に没頭していた。
暗室には時計もなく、彼女は時間を忘れて作業を続けていたようだ。
夜になり、警備員が見回りに来た際、暗室の中を確認したのかしなかったのか、鍵をかけてしまった。
暗室には内鍵も窓もなく、彼女は閉じ込められてしまった。
当時は携帯電話も普及しておらず、彼女は一人暮らしだったため、助けを呼ぶこともできず、助けがくることもなかった。
夏休み明け、暗室を開けた先生が彼女を発見した。
死因は餓死だったという。
さらに司法解剖の結果、彼女の胃の中からカメラのフィルムが見つかったそうだ。
空腹のあまり食べてしまったのだろう。
先生は続けた。
「暗室のドアの上には御札が貼ってあるんだ。ただ、暗くて見えないけどな」
この話を聞いて以来、山下は暗室に近寄らなくなり、暗室を使う授業も全て履修を放棄したそうだ。
(終)
AIによる概要
この話が伝えたいことは、日常のルールや慣習の背後には重要な理由があり、それを軽視すると予期せぬ結果を招くという教訓です。「入ります」という声がけは、物理的な安全だけでなく霊的な存在への配慮でもあり、ルールには過去の出来事が影響していることを示しています。また、暗室で起こった事故は、人間が未知や不可解な現象に対して無力であることや、それに対する畏敬の念を教えています。この出来事を通じて、慎重さや目に見えないものへの敬意の大切さが語られています。