夜更けに響くお囃子と窓の外の異形

お囃子

 

大学生の頃に住んでいた町は、神社やお寺が多い場所でした。

 

これは、その町で体験した話です。

 

当時、私は彼氏の住むアパートで半ば同棲状態で暮らしており、その日も彼がバイトから帰ってくるのを待っていました。

 

彼のバイト先は居酒屋で、帰宅はいつも午前2時を過ぎてからでした。

 

深夜番組を見ながら『まだかな……』と待っていると、突然“お囃子の音”が聞こえてきたのです。

 

どうやらそのお囃子は、彼のアパート前の道を通り過ぎていくようでした。

 

神社やお寺が多い町なので、『祭りか何かだろう』と思いました。

 

その時刻は、すでに午前0時を過ぎていましたが、『そういうものかもしれない』と深く考えず、お囃子を聞きながら彼の帰りを待つことにしました。

 

そのお囃子はとても心地よく、時折間違える音も微笑ましく感じられるほどでした。

 

それからというもの、別の日にも、また別の日にも、お囃子は聞こえました。

 

どこからともなく聞こえ、アパートの前を通り、どこかへ消えていくお囃子。

 

アパート前の道を真っ直ぐ進めば有名な神社があるので、きっとそこへ向かっているのだろうと思っていました。

 

しかし、次第にお囃子の頻度が妙に多いことに気づき始め、不思議に感じるようになりました。

 

特定の日に聞こえるわけでもなく、祭りであれば月ごとの行事として決まった日があるはずです。

 

ですが、このお囃子はまちまちのタイミングで聞こえてくるのです。

 

ある日の夜、またお囃子が聞こえてきました。

 

これまで見たことがなかった私は、意を決して窓を開けてみました。

 

すると、50メートルほど先にお囃子の列が見えました。

 

笛を吹いているのは小学生くらいの子供たちで、太鼓のようなものを叩いているのは大人でした。

 

その大人たちは、まるで子供たちを包み込むように列を作って歩いていました。

 

やがて、その列がアパートの前を通り過ぎた時のことです。

 

突然、お囃子がピタリと止んだのです。

 

『どうしたんだろう?』と不思議に思い、窓から身を乗り出して列を見つめました。

 

すると、その列がくるりとこちらを振り返ったのです。

 

全員が私を見ていました。

 

青白い顔が街灯に照らされ、じっとこちらを見ているのです。

 

恐ろしくなった私は急いで窓を閉め、鍵をかけ、布団に潜り込みました。

 

その時、玄関のチャイムが鳴りました。

 

『……あいつらが来た!』

 

震えが止まりませんでした。

 

さらに、扉をガチャガチャと回す音が聞こえたかと思うと、次の瞬間、扉が開きました。

 

「寝てんの?」

 

入ってきたのは彼でした。

 

私は安心し、彼に「お囃子が……」と慌てて説明しました。

 

ところが、彼は「そんなものなかったぞ。夢でも見たんじゃないか」と信じてくれません。

 

でも、確かにあのお囃子は聞こえましたし、彼らはこちらを見ていたのです。

 

今思えば、あれは見たり聞いたりしてはいけないものだったのかもしれません。

 

(終)

AIによる概要

この話が伝えたいことは、日常の中でふと出会う不可解で奇妙な体験が、現実と非現実の境界を曖昧にし、人の心に深い恐怖や不思議さを残すということです。語り手が体験したお囃子の音やそれに伴う出来事は、町の歴史や土地柄とどこか結びついているように感じられる一方で、理屈では説明できない異質なものとして描かれています。その体験が「見たり聞いたりしてはいけないもの」だったのではないかという結論に至ることで、不思議な余韻を残します。

この話は、未知のものに対する人間の本能的な恐れや、それを語り継ぐことで現実感と怪異の狭間を漂わせる日本的な怪談の魅力を伝えています。

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