幽霊が鍛えた弱小野球部の守備力
これは、私の出身高校の野球部でスタメンの子から聞いた話。
「学校の野球グラウンドには、ベースカバーを行う幽霊がいる」
一、二塁間のゴロを一塁手がキャッチし、一塁側を向くと、すでに誰かがベース上で捕球体勢をとっている。
一塁手がボールをトスすると、その誰かはフッと消えてしまい、ボールは明後日の方向に転がっていく。
端から見ると、一塁手が焦って誰もいない一塁にボールを投げてしまったように見えるらしい。
正一塁手である彼にとっては、もう慣れたもので、捕球後はまずゆっくり一呼吸し、周りを見回すのだという。
視界にいる人数が少し多い気がしても、一塁に向かってくるのはバッターとベースカバーにくる投手のみ。
一瞬、どう対処するか落ち着いて考えたほうが、より的確な守備ができる。
そのおかげで守備自体は上達した気がするし、ここ最近はエラーも一切ない。
とはいえ、人ならぬ誰かがいるような一塁を踏みに行くのは、やはり気が引ける。
この話を彼が野球部の合宿でしたところ、同じような経験が他の皆にもあったそうで。
確かに、監督は「スタメンとそれ以外の大きな差は守備力だ」と、いつも口酸っぱく言っている。
こういった経験を乗り越え、守備につく際の心構えや平常心を鍛えないと、我が校のレギュラーは勝ち取れないのだろう、と皆で笑い合った。
ちなみに、この話を受け、先発エースが「紅白戦や練習試合で登板が続くと、キャッチャーミットが分裂して見えた」、「バッターが二人に見えた」と言っていた。
しかし、さすがにそれは「幻覚だ」、「追い込み過ぎだ」という意見で概ね一致したようで。
そんな、昭和中頃より甲子園出場経験がない弱小野球部の話。
(終)
AIによる概要
この話が伝えたいことは、高校野球という厳しい世界の中に潜む、ただの努力や精神力では説明しきれない不思議な存在との共存です。野球部員たちは、一塁のベースカバーを行う幽霊の存在を当たり前のものとして受け入れながらも、それを乗り越えなければスタメンの座を勝ち取ることができないという現実に直面しています。幽霊の姿は、単なる幻ではなく、彼らの心の中にある恐怖やプレッシャーの象徴かもしれません。それに打ち勝つことで、選手としてだけでなく人間としても成長していくのです。
そして、この怪異を体験し、それを笑い話にできるほどに慣れていく過程こそが、彼らにとっての本当の試練なのかもしれません。怪異が日常に溶け込み、やがて彼らの野球人生における特別な一部となる。そんな、現実と非現実の狭間に揺れる青春のひとコマが描かれています。