ビルの6階倉庫から聞こえる足音 1/2
私は、あるビルに勤めています。
そこは、4階から下が店舗。
5階が事務所で、6階は
倉庫とロッカールームになっています。
私が、6階倉庫に誰か居る
事に気付いたのは、
今から一年ぐらい前になります。
私は立場上、
よく一人で残業をします。
その日もいつものように、
5階事務所で机に向かい
仕事をしていました。
すると天井から、トトトトトッと
軽やかな音が聞こえて来たのです。
それはまるで、
幼い子供がたてる
靴音のように聞こえました。
私は手を止めると、
すぐに6階倉庫へ上がったのですが、
そこは真っ暗で、
当然、誰もいませんでした。
首を傾げつつ、
私は事務所に戻りました。
その日を境に、
私はその靴音を
度々聞くようになったのです。
それはいつも
私の上の天井を、
背中の方から前へ向かって、
トトトトトッと駆け抜けます。
まず、倉庫をよく調べてみました。
事務所で聞く音の位置から、
倉庫のどこら辺を駆け抜けるかが
判断出来ます。
倉庫には高さ180センチの
在庫置き用スチール棚が、
6列ほど並んでいます。
しかし、棚は私の席から見て、
全部横方向に並んでいるのです。
足音は、
そこに並ぶ棚を無視して、
突っ切る方向に
駆け抜けていることになります。
スチール棚を
飛び越しているのでしょうか。
それが不思議でした。
また、音の聞こえる時間は
大体21時前後でした。
音が聞こえて
時計を見たときには、
針が21時付近を指している事に
気が付いていました。
しかし、毎日ではありません。
どちらかというと、
音が聞こえない日の方が
多くありました。
そして、聞こえるときはいつも
一回だけ。
背後から前へ駆け抜ける。
いつも一回きりでした。
その日、私はいつも通り
一人で残業を終え、
その場で帰り支度をしていました。
ここでは基本的に
残業はありません。
私以外、
残る人間はいないので、
今まであの音を聞いたのは
私だけでした。
私は皆が帰る時に
一緒にロッカールームへ行き、
手荷物を事務所へ持って来てから
残業をするようにしていました。
ひとりで倉庫のロッカールームへは
行きたくなかったからです。
私は机の上を軽く片づけ、
事務所の電気を落とし、
エレベーターで一階に降りました。
一階の配電盤で
ビルの電気を全て落とし、
出口の鉄扉に向かう途中、
私は忘れ物をしていることに
気が付きました。
友人に頼まれて買っておいた商品を、
今夜、帰りに渡さなければなりません。
それをロッカールームに置きっぱなし
であることに気が付いたのです。
仕方ないので私は踵を返すと
真っ暗な店内を歩き、
エレベーターに再び乗り込みました。
扉が閉まる瞬間、
右正面に掛けてある時計が、
21時付近を指しているのが
ちらりと見えました。
ちょっと嫌な時間帯です。
そういえば今日はまだ、
あの靴音を聞いていません。
まあ、聞こえない日の方が
多いわけだし・・・。
それに、さっさと行動すれば
大丈夫でしょう。
私は少し不安な気持ちで、
移動していく階数表示を眺めていました。
程なくして、
エレベーターは6階に到着しました。
扉が開くと、
静まり返った倉庫は、
エレベーター内部の明かり以外は
真っ暗です。
エレベーターの正面は、向こう壁まで
通路用に大きく開いています。
左の方にはスチール棚の端が
綺麗に並んでいます。
そして、ロッカールームの扉は
右奥の壁際に見えています。
明かりのスイッチは
ロッカールームの脇にあるので、
私はエレベーターの扉をロックすると、
そこまで走る事にしました。
しかし、エレベーターから
身体を出したその時、
例の靴音が左の方向から
聞こえたのです。
私は思わず、
そちらを見てしまいました。
そこには、
一番手前のスチール棚に
今まさに突き刺さる、
子供の後ろ姿がありました。
色ははっきりしませんが、
暗い色の上着に、
茶色っぽい半ズボン。
それに、白い靴下が
ぼんやりと見えたのです。
その子は、あっという間に
そのまま棚を突き抜けると、
靴音と共に
奥の方へ走り去って行きました。
そして辺りは、
また静まり返ったのです。
私はあまりの衝撃に、
少しの間、立ち尽くしていました。
音はやはり、
子供の靴音だったのです。
棚を突き抜けたので、
幽霊と言って良いでしょう。
でも、どうしてこんな場所に・・・。