ビルの6階倉庫から聞こえる足音 2/2

私はしばらく躊躇していましたが、

 

勇気を出してロッカールームへ

行くことにしました。

 

とりあえず、子供は行ってしまったので

大丈夫です。

 

不思議なもので、

 

走るのを止めて

ゆっくり歩いて行こうと思いました。

 

走ってしまうと、逆に、

 

恐怖が止めどなく

押し寄せて来るような、

 

そんな気がして

ならなかったからです。

 

私は決心しました。

 

ところがまた靴音が

聞こえて来たのです。

 

どうして?

 

いつもは一回しか

聞こえないのに。

 

それは、左奥をトトトトトッと

大きく回って来たかと思うと、

 

スチール棚の影から

走り出ました。

 

それは、幼い男の子でした。

 

両手をこちらへ差し出し、

 

屈託のない笑顔で、

私に向かって走って来ました。

 

その顔は本当に

嬉しそうに笑っていました。

 

そして、その目は

私を見ていましたが、

 

私の顔には向いていませんでした。

 

ただ、笑った口だけは

白い歯も見えず、

 

その中は底なしの穴のように

真っ暗でした。

 

実際、私は、その口だけが

先に迫って来るようにも感じたのです。

 

私はビクッと小さく飛び上がると、

 

すぐにエレベーターに飛び込み、

ロックを外しました。

 

すぐに扉は閉まりましたが、

 

閉まり切る扉の隙間に、

男の子の手が入りそうなところでした。

 

私はエレベーターが下降し始めると、

 

すぐに中腰になって、

天井を見上げました。

 

あの子が天井を突き抜けて来る

ような気がしたからです。

 

しかしそのようなことはなく、

 

エレベーターは無事に

一階へたどり着きました。

 

私はエレベーターから飛び出すと、

 

一目散に出口の鉄扉まで駆け、

それを引き開けました。

 

そして、あらかじめ握っておいた

鍵を差し込むために振り向いたとき、

 

閉まりつつある鉄扉の向こうに

見えたのです。

 

非常口案内プレートの

緑の光に照らされた、

 

店内真ん中のエスカレーター。

 

その手すりの端に、

 

先ほどの男の子の顔が

乗っていました。

 

何故か体は無くなっていて、

 

そこに乗っているのは

頭だけでした。

 

先ほどとは打って変わった

沈んだ表情。

 

目は伏し目がちに、

口は堅く引き結ばれていました。

 

そして床には青い靴が一組、

 

それが寂しそうに転がっているのが

見えました。

 

私は、ヒッと

口の中で短い悲鳴を上げ、

 

扉を強く引き押さえながら、

ガチャガチャと慌しく鍵を掛けると・・・。

 

夜の大通りを、もつれる足で

駅へと向かって走ったのです。

 

結局、友人に渡す荷物は

持って来られませんでした。

 

2日後、

 

皆と相談して、近くの神社から

御祓いに来てもらうことになりました。

 

いくつかお札を貼ってもらった

その日から、

 

もうあの靴音は聞こえなくなりました。

 

しかし私は今も、

皆が帰った後の倉庫には入れません。

 

あの靴音がまた聞こえてくると

嫌だからです。

 

あの子は一体、

何が望みだったのでしょうか。

 

今でも寂しく転がった、

一組の青い靴が忘れられません。

 

(終)

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