ある一族が25年間続けた生活とは

イギリスとフランスの100年戦争が、

まだ続いていた頃の話。

 

イギリスのグラスゴーの町に、

 

馬に跨ったまま、

ぐったりとしている男が

 

辿り着いた。

 

男は頭から血を流し、

 

身体のあちこちに

切り傷もある。

 

誰かに襲われたのは

間違いない。

 

人々が駆け寄って行くと、

男は血だらけの顔を上げて、

 

「助けて下さい!妻が・・・

妻が食われてしまう!」

 

と叫んだ。

 

助けてくれというのは

まだ理解出来るが、

 

「食われる!」

 

というのは、

どういうことだろうか。

 

男に事情を聞いてみると、

 

この先の海岸で、

 

何十人もの人間に突然

襲われたというのだ。

 

棒で殴られ、

馬から引きずり下ろされて、

 

相手は完全に自分を

殺すつもりだったのが

 

はっきり感じ取れたという。

 

この盗賊たちの中には、

なぜか女も子供も混じっていた。

 

そして彼らの目は

一様にギラギラし、

 

明らかに普通の人間とは

違っていたという。

 

まるで、食べ物に群がる動物

のような目をしていたため、

 

直感的に「食われる!」と

感じたというのだ。

 

たまたま馬が暴れてくれたため、

 

男は一瞬のスキをついて

馬に飛び乗り、

 

なんとか逃げて来たらしい。

 

だが、妻までは

助けられなかった。

 

それにしても

男の真剣な訴えは、

 

まんざら誇大表現でも

なさそうだ。

 

そういう盗賊団がいるのなら、

 

町の人間としても放っては

おけないということで、

 

すぐに400人の兵と

猟犬まで用意して、

 

大捜索隊を組み、

 

男の言う海岸まで

捜索に行くことになった。

 

その海岸はひっそりと

静まり返ったところで、

 

普段は人を見かけることは

滅多にない。

 

盗賊団は女も子供もいて、

 

馬も持っていなかった

というから、

 

この付近で生活しているに

違いない。

 

だがそこは、

 

それらしい建物もテントも、

そして船も見当たらず、

 

ただ漠然と岩と海が

広がっているだけであった。

 

しばらく捜索を続けていると、

 

ある方向から異様な匂いが

漂ってきた。

 

それは誰にとっても

大変な悪臭で、

 

その方向に何らかの

異常があることは、

 

誰にでも判断出来た。

 

捜索隊は皆一様に、

 

その匂いのする方向を目指し、

歩き進む。

 

すると間もなく、

 

ぽっかりと口を開けた

大きな洞窟の前に

 

辿り着いた。

 

中からは、

異様な体臭と死臭、

 

そして何かが腐ったような

匂いが漂ってくる。

 

この中に踏み込むのは

相当の度胸が必要であったが、

 

何十人もの兵士が意を決して、

一斉に中へと踏み込んでみた。

 

中にいたのは、

 

やはり男の言った

盗賊団であった。

 

盗賊団たちは

別に抵抗することなく、

 

あっさりと捕まった。

 

次々と洞窟から出て来る

盗賊団の人間は、

 

ちょっと変わっていた。

 

皆、髪は伸び放題に

なっており、

 

新しいスカートを

はいている少年。

 

聖職者の服を着ている男。

 

ボロボロのズボンを

はいている女。

 

いかにも、

 

襲った人間から剥ぎ取った

服を身に着けている、

 

という感じだ。

 

とすると、

 

あの少年がはいている

新しいスカートは、

 

男の妻から剥ぎ取った

ものだろうか・・・?

 

彼らは皆一様に

異常な体臭を発し、

 

着ているものも

男女の区別がなく、

 

盗賊団のわりには

 

男と女の比率は

同じくらいであった。

 

そして、老人から

赤ん坊までいる。

 

町の広場まで連行された

盗賊団は全部で47人。

 

盗賊団は捕らえた。

 

あとは男の妻を

捜さなければならない。

 

兵士たちは再び洞窟の中へと

入って行った。

 

しばらくすると、

 

洞窟の中から凄まじい

悲鳴が聞こえてきた。

 

ほどなくして、

 

兵士たちが次々と走って

洞窟から出て来る。

 

彼らの顔は引き攣り、

 

中には激しく吐いている

者もいた。

 

洞窟の奥には、

 

男の妻の変わり果てた

姿があったのだ。

 

胴体も手足も

バラバラに切り離され、

 

腹は切り裂かれて、

内臓はきれいに食われていた。

 

これからもっと食べるところ

だったのだろう。

 

また、奥の方には、

 

人間の手や足を

 

干し肉にしたものが

吊るされており、

 

人体の塩漬けや肉片、

腐りかけた頭、

 

干物などが大量に

発見された。

 

この47人の集団は、

ここで旅行者などを襲っては、

 

洞窟で解体し食べていたことは

間違いない。

 

そして、もう一つの

事実が分かった。

 

この47人は、

 

一人の老人を長とする

一つの家族であった、

 

ということだ。

 

長である老人の名前は、

ソニー・ビーンという。

 

ソニー・ビーンは

若い頃に故郷を出て、

 

妻と共にこの地に流れ着き、

洞窟で生活し始めた。

 

それから25年。

 

妻との間に出来た

子供たちは、

 

子供同士で近親相姦を

繰り返し、

 

ここまでの集団に

成長してしまったのだ。

 

そして彼らは、

 

外部とは一切接触を持たないで

生活してきた。

 

25年間で彼らが食べた人間は、

推定で300人という。

 

ソニー・ビーン一族は、

 

兵士たちの手によって

エジンバラに護送された。

 

事実が全て判明すると

彼らは裁判も無しに、

 

リースの港町で47人全員が

処刑された。

 

男は、両手両足を斧で一本ずつ

切り落とされていき、

 

そして最後に殺された。

 

女は、トロ火で足元から炙られ、

死ぬまで炙り続けられた。

 

処刑の方法も、

 

これまで一族が行ってきた

ことに負けないくらい、

 

残酷なものであった。

 

(終)

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