木の杭に彫り込まれた一文字の漢字 1/2

農家

 

俺はド田舎で兼業農家を

やってるのだが、

 

農作業をやってる時に

ふと気になったことがあって、

 

それをウチの爺さんに

訊ねてみたんだ。

 

その時に聞いた話が

個人的に怖かったので・・・。

 

農作業でビニールシートを

固定したりする時などに、

 

木の杭を使用することが

あるのだが、

 

ウチで使ってる木の杭には全て、

 

ある一文字の漢字が

彫り込んである。

 

今まで特に気にして

いなかったのだが、

 

近所の農家で使ってる

杭を見てみたところ、

 

そんな文字は書いていない。

 

ウチの杭と余所の杭を

 

見分けるための目印かとも

思ったのだが、

 

彫ってある漢字は、

 

ウチの苗字と何の関係もない字

だったので不思議に思い、

 

ウチの爺さんにその理由を

聞いてみた。

 

爺さんの父親(俺の曾爺さんにあたる)

から聞いた話で、

 

自分が直接

体験したことではないから、

 

真偽の程は分からんがとの

前置きをした後、

 

爺さんはその理由を話してくれた。

 

大正時代の初め、

 

爺さんが生まれる前の、

曾爺さんが若かりし頃の話。

 

事の発端は、

 

曾爺さんの村に住む

若者二人(A、B)が、

 

薪を求めて山に入った

ことから始まる。

 

二人は山に入り、

 

お互いの姿が確認出来る距離で

薪集めに勤しんでいた。

 

正午に近くになり、

 

A「そろそろメシにするか」

 

ともう一人にと声を掛けようと

した時だった。

 

突然、

 

B「アアアアアアアアアアアア!!」

 

人間にもこれだけの大きな

叫び声が上げられるのか、

 

と思うほどの絶叫を上げた。

 

突然の出来事に

Aが呆然としている中、

 

Bは肺の中の空気を

出し切るまで絶叫を続け、

 

その後、ガクリと

地面に崩れ落ちた。

 

Aは慌ててBに駆け寄ると、

 

Bは焦点の定まらない虚ろな目で

虚空を見つめている。

 

体を揺すったり、

頬を張ったりしてみても、

 

全く正気を取り戻す

様子がない。

 

そこでAは慌てて

Bを背負うようにして、

 

山を降りた。

 

その後、1日経っても、

Bは正気に戻らなかった。

 

家族の者は、

 

山の物の怪(もののけ)にでも

憑かれたのだと思い、

 

近所の寺に連れて行き、

お祓いを受けさせた。

 

しかし、

Bが正気に戻ることはなかった。

 

そんな出来事があってから

1週間ほど経った頃、

 

昼下がりののどかな農村に、

身の毛もよだつ絶叫が響き渡った。

 

「アアアアアアアアアアアア!!」

 

何事かと、

 

近くにいた村の者が

向かってみると、

 

たった今まで畑仕事をしていた

と思しき壮年の男が、

 

虚空を見つめ、

放心状態で立ち竦んでいた。

 

駆けつけた者が

肩を強く掴んで揺さぶっても、

 

全く反応がない。

 

先のBの時と同じだった。

 

その後、

家族の者が医者に見せても、

 

心身喪失状態であること

以外は分からず、

 

近所の寺や神社に行って

お祓いを受けさせても、

 

状況は変わらなかった。

 

迷信深い年寄り達は、

 

山の物の怪が里に下りて来たのだ

と震え上がった。

 

しばらくすると、

 

曾爺さんの村だけでなく

近隣の村々でも、

 

人外のものとも思える絶叫の後に、

 

心身喪失状態に陥る者が

現れ始めた。

 

しかもそれは、

起こる時間帯も様々で、

 

被害に遭う人物にも

共通するものが何も無く、

 

まさしく無差別といった

様相だった。

 

曾爺さんが怪異に出くわしたのは、

そんな時だった。

 

その日、

 

曾爺さんは弟と二人して、

田んぼ仕事に精を出していた。

 

夕方になり、

仕事を終えて帰ろうとした時、

 

自分が耕していた場所に

 

木の杭が立てられているのが

目に入った。

 

つい先程までは

そんなものは全くなく、

 

それは忽然と眼前に現れたとしか

言い様がなかった。

 

突如として現れた木の杭を

不思議に思い、

 

まじまじと見つめていた

曾爺さんだったが、

 

曾爺「誰だ?こんなふざけた

事をしたのは」

 

とわずかな怒りを覚え、

 

曾爺「こんな邪魔なものを

 

他人んちの田んぼに

ブッ刺しやがって・・・」

 

そのうち、

 

曾爺「邪魔だ、邪魔だ、ジャマダ、

ジャマ、ジャマジャマジャマ」

 

杭を今すぐにでも引き抜きたい衝動で

頭が埋め尽くされたようになり、

 

その衝動に任せて力一杯に

その杭を引き抜こうとしたその時、

 

弟に肩を掴まれ、

我に返ったという。

 

落ち着いて辺りを見渡してみると、

先程の杭は何処にも見当たらなかった。

 

弟に問いただしてみたところ、

 

弟はそんな木の杭は

全く見ていないという。

 

一緒に帰ろうとしていた

(曾爺さん)が、

 

ふと何かに目を留めた

素振りを見せ、

 

何も無い虚空を

見つめていたかと思うと、

 

何も無いところで

何かを引き抜く時にするような、

 

腰を屈めて力を溜める姿勢を

取ったので、

 

何をしているのかと

肩を叩いたのだという。

 

その時、曾爺さんは、

 

昨今、村を騒がせている

出来事を思い出し、

 

もし弟に止められることなく

木の杭を抜いてしまっていれば、

 

自分も廃人同様になっていたに

違いにないという事に思い至り、

 

肝を潰したのだそうだ。

 

(続く)木の杭に彫り込まれた一文字の漢字 2/2へ

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