山の中を走る路線バス

 

会社が休みのある夏の日、

 

私は友人のA子と

ハイキングに出かけました。

 

気が付くと、

空は夕焼け色に染まり、

 

ここまで乗ってきた

バスの終点から、

 

かなり入り込んだところまで

来てしまっていました。

 

その時にA子が、

 

「あ、いけない、

最終バスが来る時間だわ」

 

こういう場所は

交通が終わるのが早く、

 

最終バスを逃すと、

 

麓の町まで小一時間ほどかけて

歩いて下りなければならない為、

 

私たちは疲れた体にムチを打ち、

必死に下りました。

 

停留所まであと少しという

ところまで来た私たちは、

 

前方にバスを見つけると、

必死に走り出しました。

 

しかし、

 

私たちに気づかなかったらしく、

バスは発車してしまいました。

 

山間の道をとぼとぼ歩いていると、

ついに辺りが暗くなってきました。

 

夜の山は昼間の風景が

嘘に思えるほど、

 

不気味な顔を覗かせています。

 

とその時、

 

二人が下りてきた方向から、

微かにエンジン音が聞こえてきました。

 

後ろを振り返ると、

確かに車がこちらに走って来ます。

 

なんと、

 

近付いてきた車は

バスでした。

 

私は思わず、

 

「なんだ、まだバスがあったんじゃない。

ねぇA子、乗せてもらおうよ」

 

とA子に提案しました。

 

二人はバスに向かって、

両手を振りました。

 

バスがぐんぐんと近付いて来ます。

 

そして、

ゆっくりとスピードを落として、

 

私達の立っている場所から

数メートル先に停車しました。

 

プシューという音と共に、

ドアが開きます。

 

私達の振っていた手は、

ぴたりと止みました。

 

なぜかというと、

 

目の前を通り過ぎた際の車内の様子が、

異様な光景だったからです。

 

バスの車内は青白く光っており、

乗客の顔までよく見ることが出来ました。

 

おかしいのは、

 

乗客の全てが席に座らずに

立っていた事。

 

そして、

手のひらを窓に押し当て、

 

血走った目で

外を見つめていることでした。

 

私達が放心状態になりながら

立ち尽くしていると、

 

バスはドアを閉め、

ゆっくりと闇の中に消えていきました。

 

その後、

何とか歩いて山を降りましたが、

 

おかしいなぁ、

 

こんな時間にバスが走ってる

わけないよ。

 

そんな違和感を拭い去る事は

出来ませんでした。

 

そう思いながら

麓に下りた私たちは、

 

バスの案内所を見つけると、

 

そこにいた職員さんに、

この出来事を話しました。

 

バスの様子を詳しく説明すると、

職員さんの顔色が変わってきました。

 

「それ・・・何年か前に転落事故を

起こしたバスだよ、きっと・・・。

 

乗客全員が死んじゃってね・・・」

 

私達はその話を聞いて、

 

体から力が抜けていくのを

感じました。

 

そのバスに感じた違和感のひとつに、

 

今では倒産した会社の広告が、

バスの車体に貼られていたからです。

 

それ以降、

 

私の夢には毎日この日の出来事が

繰り返されます。

 

夢の中で、

 

山を下りる私達の元に

あのバスがやって来て、

 

私達のちょっと先で

停まるのですが、

 

その停まるまでの距離が、

 

だんだんと私達に近付いて

来ているのです。

 

私は夢の中でそのバスに乗ると、

どうなってしまうんでしょうか・・・。

 

(終)

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