事故車
3年前まで中古車屋で働いていた。
中古って色々やっぱ有るのよ。
オークションから仕入れた車の内装が
シミだらけで醤油臭いのも有ったし、
水没車も生乾きの洗濯物の臭いどころの騒ぎじゃない。
そんな車達も見慣れた勤務3年目に、
あれは起きた。
上司が「車の中にお客様が忘れ物(CD)をしたそうだ。
○○(俺)取ってきて」
チッ、そんなの自分の客だろ?自分で行けよ、
とか思いつつも、怖い上司なんで逆らえず、
しぶしぶ言われた車に向かった。
その事故車、フロント(車の前)部分ぼっこり逝ってた。
フロントガラスも何かに当たってたようで粉々だった。
うわーやっちゃってんなー何て思いながら、
さっさと言われた物探そうと運転席のドア開けて
ダッシュボード辺りを探してたんだ。
ふと割れたフロントガラスに目をやると、
黒髪の髪の毛が割れたガラスとガラスの間に
びっしり付いてた。
よく見れば、うっすら血痕も・・・。
やばいコレは物損事故じゃねえ。
人身じゃねえか!
狭い車内でちょっとパニックになった俺は
運転席で何やってたかよく覚えてない。
忘れ物を鷲づかみにして急いで車内から飛び出し、
呆然と遠目から事故車見てると、
ふつふつと上司に対して怒りがこみ上げてきた。
はめられた!
あの糞上司、それを知ってて
俺に取りに行かせやがったのか。
怒りを抑えつつ、
上司にCDを手渡して聞いてみた。
「あれ何があったんですか。髪の毛付いてますけど」
「事故みたいだな、人轢いたらしい」
俺は恐る恐る「死んだんですか?」
「さー?」
なぜか言いたく無さそうだった・・・。
俺も怖い上司だったんで「そうですか・・」とだけ言って、
さっさと通常業務に就いた。
その事故車だけは怖かったんで
なるべく近づかないように日々過ごしていたら、
解体屋さんが持って行ったらしい。
その後はわからない。
あのワイン色の初期型アコードワゴン。
目に焼きついて離れない・・・。
(終)