部落差別が残る地域での体験談 1/2

トンネル

 

これは僕が体験した、

紛れもない事実であります。

 

僕の出身地は、

古くからの部落差別の残る地域でした。

 

当時、僕は小学生。

 

部落差別があるといっても、

それは大人の世界での話で、

 

幼い僕には差別の意味など

わかりませんでした。

 

子供同士はどこの地区出身かなど

関わりなく仲良くなりますし、

 

大人達は罪悪感があるのか、

 

子供達の前では部落の話を

避けているふしがありましたので、

 

普段の生活で意識することは

ほとんどありませんでした。

 

ただ、

 

○○地区のヤツは気が荒い、

あまり仲良くなるな、

 

ということは言われた事があります。

 

○○地区とは、

海沿いにある2つの町を差す地域で、

 

確かに不良が多かったのです。

 

僕は○○地区の友達Y君と仲が良くて、

放課後はいつも一緒に遊んでいました。

 

その頃の僕たちは、

釣りに夢中になっていました。

 

Y君の家の近くには海があり、

よくY君のお父さんの釣竿を借りては、

 

穴場を探して海の周りを探索し、

釣りをしていました。

 

このY君のお父さんは、

とても怖い人でした。

 

いつも家に居て、

 

がっしりとした体に、

短く刈った坊主頭。

 

常に何かを睨み付けているような

目をしていました。

 

その怖い外見の通りに気も短く、

Y君の家でうるさく騒ごうものなら、

 

大声で「黙れ、ぶち殺すど!」

と過激な言葉で怒鳴りつけてきました。

 

幼い僕には苦手な大人でした。

 

ですので、

 

Y君のお父さんから借りた

釣竿を使う時には、

 

絶対に傷つけないよう

注意して扱っていました。

 

ある日、

 

Y君と二人で海のそばの林に入り、

釣りのためのスポットを探していると、

 

古いトンネルを見つけました。

 

とても小さなトンネルで、

長さは5メートルぐらいだったと思います。

 

中にはゴミが散乱していました。

 

薄暗いトンネルを抜けた先には、

釣りの出来そうな入江が見えます。

 

僕たちはトンネルを秘密基地にしようと喜び、

 

トンネル内に荷物を置いて、

先の入江で釣りを始めました。

 

暫く時間が経ちましたが、

魚は全く釣れず退屈していました。

 

すると突然背後から、

 

「釣れるか?」

 

という声が聞こえました。

 

驚き振り返ると、

破れた服を着た老人が立っていました。

 

僕は老人から漂う悪臭に、

思わず顔をしかめました。

 

白髪混じりの老人の髪は

油っぽくフケだらけで、

 

シワだらけの皮膚の色は

黒ずんでいました。

 

老人はだるそうに、

黙って僕たちを見ていました。

 

その右手には、

僕たちの荷物があります。

 

体が竦んで固まる僕の隣で、

怯えた声でY君が言いました。

 

「それ、僕たちのです」

 

「やっぱりか。

わしの家にあった」

 

老人の声はとてもしゃがれていました。

 

無表情だった顔を動かし、

目を細めて、

 

「あんなとこに置くと誰かに盗まれるぞ」

 

と笑い、

 

荷物を置いてトンネルの中に

入っていきました。

 

残された僕たちは荷物に駆け寄ると、

顔を見合わせて動揺しました。

 

老人のような人間を見るのは

初めてだったのです。

 

一体何者なんだろうと、

二人で話しました。

 

なんにせよ、

 

帰るには再び老人のいるトンネルを

抜けなくてはなりません。

 

僕たちは迷いつつ、

恐る恐るトンネルに入りました。

 

薄暗いトンネル内で、

 

ゴザの上で横になっている

老人の背が見えます。

 

その横を音を立てないよう、

そろそろと二人で歩きました。

 

老人はその間、

ぴくりとも動きませんでしたが、

 

出口に差し掛かった時、

唐突に言いました。

 

「遅いから気をつけて帰れよ」

 

僕は急に老人に興味が湧き、

尋ねてみました。

 

「おじいさんはこのトンネルに住んでるの?」

 

「ああ」

 

「いつから?」

 

「お前が産まれる前からじゃ」

 

「なんで?」

 

「昔に悪さして罰があたったんじゃ」

 

「罰でトンネルにいるの?」

 

「そう。みんなに追い出されたんじゃ」

 

おじいさんの声は寂しそうでした。

 

「もう帰れ。

おとうとおかあが心配しよるぞ。

 

それと危ないから、

ここらにはもう近よるな」

 

「うん」

 

しかし僕たちは翌日も、

老人のところに行きました。

 

幼いながらに、

老人が悪い人だとは思えなかったのです。

 

最初は迷惑そうだった老人も、

次第に僕たちを可愛がってくれました。

 

一緒に遊んでくれたり、

影送りや、折り紙など、

 

いろんな遊びを教えてくれました。

 

僕たちは老人のことを『トンじい』と呼び、

放課後は毎日のように遊んでいました。

 

そんな関係が2ヶ月ほど続いた頃、

事件が起こりました。

 

(続く)部落差別が残る地域での体験談 2/2

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