部落差別が残る地域での体験談 2/2

トンネル

 

トンじいはファンタ(炭酸飲料)が好きで、

 

僕たちがあげると大事そうに

両手で飲んでいました。

 

今度は違う味のファンタを持ってくるよと言うと、

ありがとうなと凄く嬉しそうに笑いました。

 

その日、

トンじいの元から帰る途中、

 

Y君がふざけて背の釣竿を刀に見たて、

振り回し始めました。

 

勢いよく振った先でつまずきよろけ、

 

とっさに支えにした釣竿がしなって、

真ん中あたりで折れました。

 

Y君は青ざめて泣き出し、

 

「お父さんに殺される・・・」

 

と、しきりに喚きました。

 

僕は泣きじゃくるY君に頼まれ、

 

一緒にY君のお父さんのところへ

謝りに行きました。

 

折れた釣竿を見るなり、

 

Y君のお父さんの顔つきが強張り、

目が赤くなりました。

 

限界まで膨らんだ風船が

破裂するのを抑えるように、

 

ぶるぶると震えながら、

 

「どっちがやったんか?これ」

 

と平坦な声で言いました。

 

Y君は俯いて涙を地面に落とし、

僕は怖くて黙っていました。

 

「答えんか!

お前がやったんか!!?」

 

Y君のお父さんは怒鳴りながら、

 

Y君の髪を乱暴に掴んで

無理矢理に顔を引き上げると、

 

血走った目で睨み付けました。

 

「答えんか!!」

 

「トンじいがした・・・」

 

Y君はしゃくりあげながら、

か細い声で呟きました。

 

「ああ!!?

トンじいって誰か!?」

 

「海のトンネルにいる、

おじいちゃんがやったんだ」

 

Y君のお父さんはY君を離すと、

憎らしげに言いました。

 

「大山のジジイが、あのやろう」

 

Y君のお父さんは家に入り

誰かに電話をかけると、

 

スコップを持って走り去っていきました。

 

Y君は声を上げて泣いていました。

 

翌日、

 

僕たちはトンじいのところに

怖くて行けませんでした。

 

Y君の話だと、

お父さんは翌日の朝に帰ってきて、

 

二度とトンネルに近寄るな、

と言ったそうです。

 

一週間ほど経って、

よくやく僕らはトンネルに行きました。

 

お詫びにと、

ファンタをたくさん持って。

 

しかし、

トンじいは居ませんでした。

 

がらんとしたトンネルは静まり返って、

 

トンじいが使っていたゴザが

そのままに敷かれていました。

 

暫く待ちましたが、

 

仕方ないのでファンタを置いて

僕たちは帰りました。

 

その翌日再びトンネルに行くと、

トンじいはやはりおらず。

 

昨日持って行ったファンタは、

そのままの状態で置いてありました。

 

僕は急に不安になってきました。

 

トンネル内の赤黒い汚れが、

トンじいの血に見えたのです。

 

Y君は膝をついて号泣し、

 

「ごめんな、ごめんな、トンじい・・・」

 

と繰り返していました。

 

それから次第にY君とも疎遠になり、

トンじいと会うことも二度とありませんでした。

 

大人になって母に、

 

昔トンネルに住んでいる人が居たと言うと、

教えてくれました。

 

「昔、○○地区に

大山さんって人がおってね。

 

一家心中なさったんよ。

 

自宅に火をつけて、

娘さんも奥さんも亡くなったんやけど、

 

大山さんは助かってしまって。

 

ただ、

隣の家にも延焼してしまってね。

 

結局、

○○地区の人から追い出されてね。

 

本当か嘘か、

トンネルに住んでるって聞いたけど。

 

その人かもしれんね。

 

○○地区の奴らは本当に酷いことするよ」

 

トンじいがどうなったのか、

僕にはわかりません。

 

もしかしたら別の場所に移動して、

今も元気にしているのかも知れません。

 

ただ、

曖昧な記憶で思い返すのです・・・

 

あの日以来、

 

Y君のお父さんが持って行ったスコップを、

Y君の家で見なくなったこと。

 

そして、

Y君の「ごめんな」の意味を。

 

(終)

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One Response to “部落差別が残る地域での体験談 2/2”

  1. 匿名 より:

    部落差別なんか全然関係ない。馬鹿餓鬼の嘘のせいで人が死んだという胸糞の悪い話。

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