ロフトで寝ていた一人暮らしの夜に
今から5年前、
僕がまだ大学生の頃の話です。
当時、東京郊外にあるアパートで
一人暮らしをしていて、
寝る時は布団が一組なんとか敷けるほどの
狭いロフトで寝ていました。
ある冬の夜のこと。
いつものようにロフトで寝ていると、
ガサガサと変な物音で目が覚めました。
眠い目を擦り、
ロフトから顔だけを出して
部屋の下を見てみると、
何かが暗闇の部屋の中を
グルグルと動き回っていました。
まだ寝ぼけていたので、
犬か猫でも迷い込んで来たのかな?
と最初は思っていたのですが、
だんだんと目が覚めてくると、
そんな訳ないだろ!と気付きました。
ビビリながらも息を潜めて
じっと見ていると、
次第に目が慣れてきて、
動いているそれが何なのか分かりました。
それの正体は5~6歳くらいの
人間らしい男の子で、
手首から先が無いのに、
四つん這いで部屋の中を
走り回っていました。
男の子は真っ裸なうえ、
髪の毛が所々しか生えて無く、
よく見ると身体には『黒い斑点』が
ポツポツと幾つも有り、
ガリガリにやせ細っています。
僕はあまりの出来事に、
恥ずかしながら思いっきり悲鳴をあげ、
喚き散らしてしまいました。
男の子はゆっくりこちらを見ると、
「アアァアァ・・・ゥアァアア・・・」
と言いながら、
凄い勢いでロフトの下へ来て、
こちらに向かってジャンプをし始めました。
さすがにロフトまではジャンプしても
届かないのですが、
男の子は狂ったようにピョンピョンと
飛び跳ねています。
僕は後退りし、
ロフトの隅で枕を抱えながら
ガタガタ震えていたのですが、
ふとロフトと下の部屋を繋ぐ
ハシゴが目に入りました。
あのハシゴに気付かれたら終わりだ!
と思い、
震えながらもハシゴをロフト側に
上げようとしていると、
さっきまでジャンプしていた男の子が
僕の行動に気付き、
手首から先が無い腕で、
ハシゴにしがみ付いてきました。
この時になって、
初めて男の子の顔を見たのですが、
目は両目とも黒目が異常に大きく、
上唇が真ん中から鼻まで裂けていました。
黒い斑点は顔にもありました。
僕はハシゴから男の子を振り払おうと
ハシゴを上下に揺すったのですが、
男の子は腕を絡め付けていて、
なかなか離れません。
僕はあまりの怖さに力が抜け、
手が滑ってハシゴを下の床に
落としてしまいました。
ガタン!!という音が響き、
思わず目を閉じてしまいましたが、
恐る恐る目を開けてみると、
男の子はどこにもいません。
僕は何が何だか分からず呆然としていると、
後ろから「キキキ・・・」と声がし、
ビックリして振り返ると、
いつの間にか後ろに男の子がいて、
黒い目を光らせながらこちらを見て
ニタニタ笑っていました。
驚きのあまり、
僕はロフトから転がり落ち、
身体を強打したにも関わらず
急いで起き上がり、
玄関へ向かって猛ダッシュしました。
その後、近くに住む友人の家まで
行ったのは覚えているのですが、
気が付くと、
病院のベッドで寝ていました。
友人いわく、
夜中にインターホンが何度も鳴り、
僕が「助けて!ヤバイ!」と叫んでいるので、
何事かと思い玄関を開けると、
僕が血だらけで座っていたそうです。
僕は友人の顔を見るなり
気絶してしまったらしく、
友人は救急車を呼び、
僕は病院に運ばれ、
そのまま丸一日寝ていたらしいです。
僕は幸い、
右手を捻挫しただけで
他は細かい擦り傷程度でしたが、
医者や友人に事の経緯を話すと、
頭を打ったんじゃないかと思われ、
何度も検査されました。
アパートには友人に行ってもらい、
入院用の着替えなどを
取って来てもらったのですが、
ハシゴが落ちていただけで
何も居なかった、
と言っていました。
僕はあれが現実とは思えず、
夢でも見ていたのだろう・・・
と思うことにしました。
今でもそう思っています。
というか、
そう思いたいのです。
ただ、
その事件から半年ほどの間、
背中に黒い斑点がポツポツと
出て来てはいましたが・・・
(終)