一人暮らしを始めて3日目のことでした 1/2
一人暮らしを始めて3日目のことでした。
その日、私は仕事が上手くいき、
お客さんと遅くまで繁華街で飲んでいました。
私の借りたマンションは、
駅から徒歩2分という立地の良さで、
遅くまで飲んでいても大丈夫、
という気軽さも手伝い、
いつもよりものんびり飲んでいましたが、
なんとか最終電車に間に合いました。
自宅マンションの最寄り駅は、
そこから快速で2つ目の駅です。
10分ほどで降車駅に到着しました。
駅前のロータリーを横切り、
ゆっくりとマンションに向かっていました。
のんびり飲んでいたとはいえ、
そこそこ酒豪の私にとっては、
やっとエンジンがかかってきた!
というところでのお開きでした。
まだまだ飲み足りなかった私は、
マンションのすぐ脇にあるコンビニで、
ビールやらおつまみやらを買って、
マンションの玄関に着きました。
バブル時代に建てられたマンションで、
当時は分譲のみでしたが、
今では分譲貸しもしています。
分譲で購入した人も住んでいましたが、
入居者の殆どが私のような賃貸契約者でした。
総大理石の玄関に入ると、
大人の女性が子供を二人連れて、
来客用のベンチに座っていました。
女性はショートヘアで、
年の頃は35歳くらい。
タンスから引っ張り出した一張羅を
着てきましたという感じで、
私には少し可笑しく思えました。
管理人室には誰も居ませんでした。
定時の夕方5時で帰ったようです。
その時、私は内心・・・
こんな夜中に子連れの女性?
と思いましたが、
無視してそのままエレベーターホールに行き、
8階のボタンを押しました。
見たもの全てがこの世のものとは限らない・・・
エレベーターの中で私は、
(酷くやつれた女の人だったなあ・・・)
(子供は二人とも幼稚園くらいかな・・・)
(あんな所で何をしていたんだろう・・・)
などと考えながら、
部屋の鍵を鞄の中から取り出しました。
8階に着き、
エレベーターを降りてすぐ右側のドア。
そこが私の新居です。
鍵を開け、
電気を点けて部屋の中へ。
着替えるのも面倒だったので、
すぐに買ってきたビールとおつまみを取り出し、
グラスを用意してソファーに座り、
テレビを見ながら一人で酒盛りを始めました。
何気なくテレビの横に置いてある時計を見ると、
午前2時過ぎでした。
ピンポーン♪
突然、玄関のチャイムが鳴りました。
線路脇の部屋とはいえ、
この時間はもう電車も止まっているので、
周りは静かな時間です。
本当に心臓が口から飛び出そうなくらいに
驚きました。
(こんな時間に誰?)
(知り合いだったら電話してから来るし・・・)
などと思って、
きっとお隣のご主人が間違えたのだと
勝手に思い込んでいました。
しかし・・・
再びピンポーン♪と鳴りました。
仕方がないのでインターホンの受話器を取り、
「はい」と出ました。
・・・・・・
相手は無言です。
(あぁ、やっぱりお隣のご主人が間違えて・・・)
と思っていましたが、
さらにピンポーン♪ピンポーン♪と
けたたましく二度鳴りました。
覗き穴から見てみようかとも思いましたが、
面倒だったし、
また受話器を取り、
今度はとても怪訝そうに「はい!?」
と答えました。
※怪訝(けげん)
不思議で納得がいかないこと。
「・・・えして・・・」
女性のか細い声が聞こえました。
私は思わず「はあ?」と答えました。
そう答えるしかありませんでした。
(嫌がらせかな?)
(こういうの流行っているのかな?)
などと思いながら、
「どちら様ですか?」
と訊いてみました。
するとまた、
「・・・えして・・・」
としか聞こえません。
(女の人・・・)
(さっきの下に居た人かな?)
「すみません、
よく聞こえないんですが?」
と言うと、
「主人を返して!!」
今度ははっきりと聞こえました。
私は理解不能でした。
当時、不倫はおろか、
彼氏もいませんでしたから。
「あの~、
お宅をお間違いじゃないですか?」
と訊いてみました。
「早くココを開けなさいよ!
居るんでしょ、主人!
そこに居るんでしょ?!」
と叫ぶや、
ドアを激しく叩き始めました。
(冗談じゃない!!)
(こんなことを隣近所に噂されたら・・・)
私は仕方なくドアを開けました。
そこにはやはり・・・
さっき下で見た子連れの女性が
突っ立っていました。