僕も見たいから、コレ、ちょうだい

まだ俺が小学生の頃、カケル(仮)という

天体マニアの友達がいて、

ちょくちょく二人で

夜中に家を抜け出しては

星を観に行ってた。

 

別に星を見るくらいなら

夜中でなくてもいいのだが、

小さい頃って、

そういう冒険をしてみたくなるもんだ。

 

ある日の夜中、

いつものように二人で待ち合わせて

近くの山に登った。

 

山というか、

もしかすると丘かもしれない。

 

とにかく見晴らしのいいところだったので、

俺たちはもっぱらそこへ登って

観測していた。

 

カケルは高価そうな望遠鏡を持っていて、

俺は当然そんなもんは持ってないから

二人で交代で覗いて星を見ていた。

 

カケルと違って、

俺は星のことを全然知らないから、

いつもカケルに

色々教えてもらいながら見る。

 

その日も、「あれが大熊座で、

その一部が北斗七星で・・・」

とか教わっていた。

 

そしたら耳元で突然、

「僕にも見せてよ」

と聞こえた。

 

その時、望遠鏡を覗いていたのは

俺だったから、

交代しようと思って顔を上げ、

カケルを見た。

 

だけどカケルは、そんな俺を

不思議そうな顔で見ている。

 

「見たいんじゃないの?」

「ジン(俺)が見たいんだろ?」

「今、おまえが見せてって言ったんじゃん」

「ハァ?言ってねーよ」

 

変だとは思ったが、カケルは

自分のことを僕とは言わないから、

空耳ということで気にしないことにした。

 

だけどしばらくすると、

また「僕にも見せてよ」と・・・。

 

今度こそカケルか?と思い見るが、

カケルは俺と目が合った途端、

俺じゃないと言いたげに首を振る。

 

誰かの悪戯か?と思い、

俺はその辺の隠れられそうな場所を

片っ端から探した。

 

結局、誰も見つけられずに戻ると、

カケルは、

「幽霊なんじゃないか?」

「バカ、そんなもんいるわけねーだろ」

 

俺たちは二人とも豪気な性格で、

そういう不思議なものを

怖いと思ったことはない。

 

だからカケルもこのときは、

まだ怯えた感じではなかったし、

俺に至っては幽霊なんて

はなから信じていなかった。

 

交代して今度はカケルが覗いていると、

またしても「僕にも見せて」

と聞こえてきて、

いい加減ぶちきれた俺は 、

「うるせーよ!

見たいんなら出てこいやボケ!」

と、アテもなく叫んでみた。

 

だが、何も変化は起こらず、

しらけてしまった俺たちは、

いつもより早いが山を降りることにした。

 

望遠鏡を片付けようと、俺が望遠鏡を

カケルが三脚をたたんでいると、

いきなり俺の身体が動かなくなった。

 

よくいう金縛りみたいに、

全身が硬直するとか、

そういう感じじゃない。

 

誰かにしがみつかれてるみたいに、

ずっしりとした重みで動けない。

 

「カケル・・・」

 

さすがの俺もちょっとビビって

カケルを呼ぶと、

ああン?とこっちを見たカケルの顔が

瞬時に凍りついた。

 

何だ?何が見えてるんだ?!

 

「僕も見たいから、コレ、ちょうだい」

また耳元であの声が聞こえたが、

コレとは何なのかわからない。

望遠鏡か?

 

次の瞬間いきなりカケルが叫んだ。

「目ぇ閉じろ!ジン!!」

 

反射的に閉じた俺の瞼に鋭い痛みが。

「いてぇぇぇ!」と叫んで目を覆う俺。

 

「このヤローっ!ジンから離れろ!」

と叫んで俺の背中に抱きつくカケル。

 

えっ、俺の背中になんかいるの?

とパニックになる俺の手を引いて

カケルが走り出した。

 

カケルが抱きついたからか、

身体の重みがなくなっていて、

なんとか動くことが出来た。

 

だけど片目から血が出てるらしく、

液体が目に入って、前が見えにくい。

 

予想通り俺は、すっ転んで、

とっさに持っていた望遠鏡を

かばったせいでひざを強打。

 

「ぼけぇぇぇ!何やってんだーっ!」

 

はっきり言ってこの時のカケルの顔が

一番怖かったが、走れなくなった俺を

カケルはおんぶして全速力で走った。

 

カケルは俺より身長が

5センチくらい高いだけで、

体格はそんなに変わらない。

 

なのに、「次の運動会で

おんぶ競争があったらこいつと組もう」

と思うくらい速かった。

 

とりあえず近い方のカケルの家に寄り、

粗塩をお互いの身体に撒いて、

怪我の手当てをしてから、

またおぶってもらって俺は家まで帰り着いた。

 

瞼の怪我は引っかかれたような感じで、

思ったよりは浅かった。

 

それで、カケルは一体何を見たのか聞くと、

「おまえの背中に、目から血みたいな

赤黒いのがだらだら流れた奴が被さってて、

おまえの目に手を伸ばしたから」

ということだった。

 

(終)

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