呪われた401号室
私はマンションの管理会社に勤めている。
この仕事を長くやっていると、色んな部屋にまつわる不思議な事に遭遇する。
会社はマンションを12棟ほど所有していて、管理にあたるのはほぼ私一人。
会社の本体は別事業をやっており、儲けた分を競売物件につぎ込み増やしている。
したがって、安く中古物件を購入する為、古くていわくつき物件が多数ある。
その物件の一つのでの不思議な話。
長期空室となっている部屋
その物件は、築25年程のKマンション。
うちに物件が回ってきたのは3年前。
単身用のワンルームタイプ。
競売物件は前オーナーが夜逃げ状態で、物件資料の不備が大量にあった物件。
入居者契約書やら家賃の入金状況もわからない箇所が多くあった。
なんとか調べてみると、競売物には珍しく入居状況は良好で、空き部屋は3つ。
うち2つは半年程空室。
しかし401号室のみ、かなり長期空室。
401号室は角部屋で日当たりも良好なはずなのに、長期空室はちょっとおかしいなと感じた。
早速空室の点検に向かうと、2つの部屋はリフォームアップされていたが、問題の401号室はそのままだった。
前オーナーが金策に困り、そのままの状態で放置したものと考え部屋を物色。
部屋は典型的なワンルームで、玄関を入るとユニットバスとキッチンがあり、中扉を開けると部屋。
窓が右手にあり、奥にベランダ。
部屋には小さなタンスに、3段ボックスとテレビが2台。
押入れには布団とごちゃごちゃした小物。
ちょっとした物置状態だった。
廃棄物代がかかるなぁと舌打ちしながら色んな物を漁っていると、霊感ほぼ無しの私が突然人の視線を感じる。
生活臭の残っている夜逃げ部屋では、たまに違和感を感じる事はあるが、妙に気持ち悪い。
しばらく部屋にいると、どうやら壁に掛けてある古い姿見の鏡から視線を感じる。
その姿見は壁に張り付けてあって移動が出来ない。
これはちょっと嫌な部屋だなと感じながら、鏡は見ないように作業を続ける。
最後に室内の写真を撮り終え帰社した。
早速リフォーム業者に連絡を入れ、リフォームアップを待つことに。
数日後、リフォーム会社の業者から電話。
業「Sさん言い難いんやけど、あの部屋なんかありますよ」
私「どないしたんですか?」
内心、やっぱりな・・・と。
業「申し訳ないですけど、今職人と私、401にいるから来てくれます?」
現地に行ってみると、例の姿見の事らしい。
業「Sさん、ちょっと裏側を見てもらえます?」
恐る恐る裏を見ると、数枚の御札が・・・。
それも、半分煤けている感じ。
ちょっと予想していたが、かなりビビってしまった。
しかも、職人一人が急に頭痛がして帰ってしまったとの事。
業「Sさん、色んな現場入ったけど、ここは気色悪いで。実はわしもさっき姿見動かした時、鏡に人影見たで」
さすがに洒落にならないので、取引のあるお坊さんを呼んで、業者と職人と私にお経を詠んでもらい、とりあえず無事に終わった。
リフォームアップが完了し、入居者募集開始。
少し家賃設定を低くしたせいもあって、1ヵ月もしないうちに入居者が見つかった。
入居者は50代前半の女性。
あまり詳しくは書けないが、以前長期入院をしていて居住保護の方だった。
入居日は福祉関係の人と一緒に来ていて、物腰の柔らかい感じのいいおばちゃん。
数日何事もなく過ぎ、401号室の事もすっかり忘れたある日、隣の402号室に入居中の女性から電話があった。
内容は、夜間に隣のおばちゃんが訳の分からない事を叫び、壁を叩くとの事。
こちらで他の入居者などに聞いてみると、内容はこんな感じだった。
夜間、突然廊下に出てきて、「天井から出てきて見てる!」、「ここの住人は淫乱で男をたくさん連れ込んでる」、「○○より私を睨んで監視している」、「監視だけじゃなく強要もされている」、「ここは遊郭や」等、意味不明な事を叫んでいるらしい。
夜中にベランダから同じような事を叫ぶため、数回警察が来ているらしかった。
昼間に401号室を訪ねてみると、おばちゃんは別人の様に変わり果て、目だけが異常に鋭くなっていた。
話をすると、「朝から晩まで天井から監視されるので眠れへんのや・・・」と。
ふと室内の天井を見ると、直径30センチほどの穴が開いていた。
話し合いの結果、おばちゃんも部屋にいたくないとの事だったので、福祉に相談して強制入院と入居解約の手続きを取った。
退去後、天井の穴の修繕で再び業者に依頼した。
数日後、また電話があった。
業「Sさん、また401の事なんですけど・・・」
私「部屋は綺麗やから天井とハウスクリーニングだけでええよ」
業「実は天井補修見てきたんですけど、天井裏・・・御札だらけでしたんや」
私「・・・・・・、とりあえず補修よろしく!」
おばちゃんは以前、躁鬱の関係で入院していたので、部屋とは関係ないと自分に言い聞かせ、その後半年間部屋を寝かした後、再度募集を開始した。
次の入居者もすぐに決まり、20代後半の男性Aさん。
定職もあり保証人は親で、写真を見る限り好青年のようで一安心した。
入居後に一度挨拶したが、なかなか礼儀正しい青年だった。
ところが入居後3ヶ月程経ってから、Aさんの保証人でもある親から連絡があり、Aさんと連絡が取れないとの事。
一度部屋を見たいという。
家賃は当月分の振込み無し。
翌日、両親が田舎から出て来たので話を聞くと、会社も無断欠勤で退社しているとの事。
内心、嫌な感じがした。
ただの失踪くらいならよくあるが、最悪の可能性も・・・。
両親と部屋の前に到着し、呼び鈴を鳴らしても反応無し。
合鍵で部屋に入ろうと扉を開けると、ガチャンとチェーンが掛かっていた。
と同時に、物凄い悪臭。
両親の手前失礼だが、悪臭でえずいてしまうほど。
玄関は真っ暗で、ゴミ袋らしき物が見える。
「Aさーん、いてますかー?!管理会社です!」
呼びかけたが返事無し。
両親も、「○○、お母さんやで!」と必死に呼びかけてみたが、やっぱり返事無し。
微かに室内からテレビの音だけが聞こえてきた。
両親に、「車にチェーンカッターあるので持って来て切断しますわ」と声をかけ、車に向かう。
チェーンがようやく切れる。
両親に一応、「私が先に室内を見ます」と言い、部屋に入る。
(うぅ・・・最悪や・・・。玄関ごみだらけ)
室内は真暗で、テレビが点いていた。
「Aさん、いませんか?」と恐々室内を見ると、ベッドの毛布に包まり体育座りのAさんが!
さすがに驚き、「うわぁ!!」と声をあげてしまう。
大声で心配になり、両親も部屋に入って来た。
「○○!大丈夫か!しっかりしいや!」
両親の問いかけにも、無気力にうなだれているだけ。
髪と髭が伸び、数ヵ月前の青年とは明らかに違っていた。
とりあえず暗いので電気を点けようとスイッチを押してみたが、電気は点かず。
テレビは点いていたのにおかしいなと天井を見ると、黒いゴミ袋で覆われていた。
部屋をよく見ると、窓やベランダまでが全て黒のゴミ袋で覆われ、目張りまでしていたのだ。
まさに異常。
とりあえず救急車を呼び、天井のゴミ袋を剥がしてみると、照明は外され、その横にポッカリ穴が開けられていた。
ようやく救急車が到着し、両親は泣きながら一緒に病院へ向かった。
数日後、母親が会社に来られて、息子は田舎で療養するので部屋を解約しますと告げられた。
私はAさんが心配でしたが、さすがに容態や経緯は聞けなかった。
そうしてAさんの退去から約2年近く経つが、あの401号室は現在は開かずの間で、入居者募集はとりあえずしていない。
401号室を詳しく調べてみたいが、変な噂になると困るので調べていない。
(事実、4階の住人の間では「401に入ると祟られる」と噂になっていた)
管理物件で何かあった時、管理会社の人間は警察や知り合い、保証人より先に部屋に突入し事後処理するので色々とツラい。
ある意味貴重な体験は出来るのだが・・・。
最後に、以前401号室をデジカメで撮影した画像に、全く撮った記憶がない天井付近の画像が紛れ込んでいた。
(終)