我が家で起こった霊障騒動
父は憑依体質というか、毎晩のように唸される人だった。
対して、母は呪(まじな)い師の家系だったからか、そういうのを跳ね除ける人だった。
なので父が唸されても、母が胸の辺りをペシッとすれば収まっていた。
大雨が続いた秋頃だったと思う。
ある夜から父が尋常ではない唸され方をするようになった。
金縛りに遭い、家中に響くような大きな声で唸る。
半月ぐらい経った頃、金縛りに遭った父がふと横を見ると、そこには白装束の老婆があちらを向いて横たわっていた。
いよいよ見えるようになってきた父は、日に日にやつれていく。
そんなある夜、凄まじい唸り声が父の寝室から聞こえた・・・。
父に取り憑いていたものとは
起きていた私は寝室のドアを開けようとしたが、頭の中で警報というのか、「開けるな!」という声を聞いたような気がして、慌てて風呂場にいた母を呼びに行った。
母はすぐに出てきて、寝室のドアを開けた。
その瞬間、私は「見てはいけない!」と反射的に顔を背けた。
父は白目を剥いて悶(もだ)えていたらしい。
母が頬を張って叩き起こすと、真っ青ながらも正気に戻ったようだ。
翌朝に父は、「寝室のタンスのガラス戸から、あの老婆がぬう~と出てくる夢を見た」と、震えながら語った。
当時、私はキョンシーのグッズはまっており、御札に”悪霊退散”と書いて念を込め、そのタンスのガラス戸と窓の方に貼った。
次の日、父は久し振りに唸らなかった。
しかし次の夜、最大の恐怖がやってくる。
父は寝ていながらも、家全体の事が見えたらしい。
寝室の外から老婆が入って来ようとしていた。
しかし、その位置には御札がある。
タンスのガラス戸からも入れないようだった。
そこでトイレ側の窓をぬっと通り抜けると、物凄いスピードで寝室の戸をすり抜けて父のいる方へ。
その夜、かつてないほどの凄まじい父の叫びが響き渡った。
いよいよ尋常ではないと、”何でも見える”という、この地方の言葉では『ほっしゃどん』と呼ばれる霊能力者に見てもらうことになった。
その方は、確かに父に老婆が憑いていると言い、なんとその老婆の名前を口にした。
父はその名前に覚えがあった。
昔近所に住んでいたおばさんで、小さい頃の父を色々と可愛がってくれていたそう。
ほっしゃどんが言うには、「あなたに救いを求めている。墓を見てみなさい」と。
翌日、親戚の方に了承をもらい、墓を見に行った。
墓の中で遺骨は骨壷に入っておらず、ただばら撒かれ、長雨のせいで水に浸っていた。
なぜそんな状態だったのか。
老婆には子供や旦那などがいなかった。
つまり、一人きりだった。
なので亡くなった時、一番近い親族のTが葬儀をしたのだが、Tは骨壷すら惜しんだ。
この親族Tは有名な守銭奴で、老婆の財産なども根こそぎ騙し取ったり、酷い事をしていたそうだ。
※守銭奴(しゅせんど)
金銭に異常な執着を持つ人のこと。ケチな人。
墓の手入れは別の親戚に頼み、その帰りに父と母はTの家付近に寄ってこう言ったそうだ。
「自分に頼られてもどうしようもない。恨むならこのTさんを恨んで下さい」
翌日から、父の霊障はなくなった。
数ヶ月後、Tは脳溢血で倒れて半身不随となり、その後まもなく亡くなった。
私たち家族は因果応報の怖さを噛み締め、長かった恐怖が終わった事を感じた。
どうやら父は、なまじ霊感があったせいで頼られたようだった。
(終)