呪う女 2/18

俺は恐くなり「逃げよ」と言ったが、

慎が「あれ、やっとるの女や。よー見てみ」

と小声で言い出し、

 

淳が「どんな顔か見たいやろ?

もっと近くで見たいやろ?」と悪ノリしだし、

慎と淳はドンドンと先に進み出した。

 

俺はイヤだったが、

ヘタレ扱いされるのも嫌なんで、

渋々二人の後を追った。

 

その女との距離が縮まるたびに、

「コン!コン!」以外に

聞こえてくる音があった。

 

いや、音と言うか、

女はお経のようなものを呟いていた。

 

少し迂回して、

俺達はその女の斜め後方8メートル程の

木の陰に身を隠した。

 

その女は、

肩に少し掛かるぐらいの髪の長さで、痩せ型、

足元に背負って来たリュックと電灯を置き、

写真のような物に次々と釘を打ち込んでいた。

 

すでに6~7本打ち込まれていた。

その時、「ワン!」

 

俺達はドキッとして振り返った。

 

そこにはハッピーとタッチが、

尻尾を振ってハァハァいいながら、

なにしてるの?と言わんような顔で居た。

 

次の瞬間、

慎が「わ゛ぁー!!」と、

変な大声を出しながら走り出した。

 

振り返ると、鬼の形相をした女が

片手に金づちを持ち、

「ア゛ーッ!!」みたいな奇声を上げ、

こちらに走って来ていた。

 

俺と淳もすぐさま立ち上がり、

慎の後を追い走った。

 

が、俺の左肩を後ろから鷲づかみされ、

すごい力で後ろに引っ張られ、俺は転んだ。

 

仰向きに転がった俺の胸に「ドスっ」と

衝撃が走り、俺はゲロを吐きかけた。

 

何が起きたか一瞬分からなかったが、

転んだ俺の胸に女が足で踏み付け、

俺は下から女を見上げる形になっていた。

 

女は歯を食いしばり、見せ付けるように

歯ぎしりをしながら、

 

「ンッ~ッ」と、

何とも形容しがたい声を出しながら、

俺の胸を踏んでいる足を、

左右にグリグリと動かした。

 

痛みは無かった。

もう恐怖で痛みは感じなかった。

 

女は小刻みに震えているのが分かった。

恐らく興奮の絶頂なんだろう。

 

俺は女から目が離せなかった。

離した瞬間、頭を金づちで殴られると思った。

 

そんな状況でも、いや、

そんな状況だったからだろうか、

女の顔はハッキリと覚えている。

 

年齢は40ぐらいだろうか、

少し痩せた顔立ち、目を剥き、

少し受け口気味に歯を食いしばり、

小刻みに震えながら俺を見下す。

 

俺にとってはその状況が、

10分?20分?、全く覚えてない。

 

女が俺の事を踏み付けながら背を曲げ、

顔を少しずつ近づけて来た。

 

その時、

タッチが女の背中に乗り掛かった。

 

女は一瞬焦り、俺を押さえていた足を

踏み外し、よろめいた。

 

そこにハッピーも走って来て、

女にジャレついた。

 

恐らく、2匹は俺達が普段遊んでいるから、

人間に警戒心が無いのだろう。

 

俺はその隙に、

慌てて起きて走り出した。

 

「早く!早く!」と、

離れたところから慎と淳が、

こちらを懐中電灯で照らしていた。

 

俺は明かりに向かって走った。

 

「ドスっ」

 

後ろで鈍い音がした。

俺には振り返る余裕も無く走り続けた。

 

慎と淳と俺が山を抜けた時には

0時を回っていた。

 

足音は聞こえなかったが、

あの女が追いかけて来そうで、

俺達は慎の家まで走って帰った。

 

慎の家に着き、俺は何故か

笑いが込み上げてきた。

 

極度の緊張から解き放たれたからだろうか?

しかし、淳は泣き出した。

 

俺は、

「もう、あの秘密基地、二度と行けへんな。

あの女が俺らを探してるかもしれんし」

と言うと、

 

淳は泣きながら、

「アホ!朝になって明るくなったら

行かなアカンやろ!」

と言い出した。

 

俺がハァ?と思っていると、

慎が俺に、

 

「お前があの女から逃げれたの、

ハッピーとタッチのおかげやぞ!

 

お前があの女に後から殴られそうなとこ、

ハッピーが飛び付いて、

代わりに殴られよったんや!」

 

すると淳も泣きながら、

「あの女、タッチの事も、

タッチも・・・うっ・・・」

と号泣し出した。

 

後から慎に聞くと、走り出した俺を

うしろから殴ろうとしたとき、

 

ハッピーが女に飛び付き、

頭を金づちで殴られた。

 

女は尚も俺を追いかけようとしたが、

足元にタッチがジャレついてきて、

タッチの頭を金づちで殴った。

 

そして女は一度俺らの方を見たが

追いかけて来ず、ひたすら2匹を

殴り続けていた。

 

俺達はひたすら逃げた。

 

慎も朝になれば山に入ろうと言った。

もちろん、俺も同意した。

 

興奮の為に明け方まで眠れず、

朝から昼前まで仮眠を取り、

俺達は山に向かった。

 

皆、あの『中年女』に備え、

バット、エアーガンを持参した。

 

山の入口に着いたが、慎が

「まだアイツがいるかも知れん」と言うので、

いつもとは違うルートで山に入った。

 

昼間は山の中も明るく、

蝉の泣き声が響き渡り、

 

昨夜の出来事など嘘のような雰囲気だ。

 

が、『中年女』に出くわした地点に

近づくにつれ緊張が走り、俺達は無言になり、

また足取りも重くなった。

 

少しずつ昨日の出来事を思い出し、

例の地点に差し掛かった。

 

バットを握る手は緊張で汗まみれだ。

 

例の木が見えた。

女が何かを打ち付けていた木。

 

少し近づいて、俺達は言葉を失った。

 

(続く)呪う女 3/18へ

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