リゾートバイト(本編)9/14

といっても、俺とAは後の荷台なわけで。

乗り心地は史上最悪だった。

 

旦那さんは、俺達が荷台に

乗っているにも関わらず、

有り得んほどにスピードを出した。

 

Aから、軽く女々しい悲鳴を聞いたが

スルーした。

 

どれくらい走ったのか、わからない。

あんまり長くなかったんじゃないかな。

 

まあ正直、それどころじゃないほど

尾てい骨が痛くて覚えていないだけなんだが。

 

着いた場所は、普通の一軒家だった。

 

横に小さな鳥居が立っていて、

石段が奥の方に続いていた。

 

俺達の通されたのはその家の方で、

旦那さんは呼び鈴を鳴らして待っている間、

俺達に「聞かれたことにだけ答えろ」

と言った。

 

「おめぇら、口が悪いからな。

変なこと言うんじゃねぇぞ」

 

俺は思った。

この人にだけは言われる筋合いがないと。

 

少し待つと、家から一人の女の人が出てきた。

 

年は20代くらいの普通の人なんだけど、

額の真ん中にでっかいホクロがあったのが

すごく印象的だった。

 

その女の人に案内されて通されたのは、

家の一角にある座敷だった。

 

そこには一人の坊さん(僧?)と、

一人のおっさん、それに

一人のじいさんが座っていた。

 

俺達が部屋に入るなり、おっさんが

「禍々しい」と呟いたのが聞こえた。

 

「座れ」

 

旦那さんの掛け声で、

俺達は坊さんたちが並んで座っている

ちょうど向かい側に3人並んで座った。

 

そして旦那さんがその隣に座った。

すると、じいさんは口を開いた。

 

「○○(旅館の名前)の旦那、

この子ら全部で3人かね?」

 

「えぇ、そうなんですわ。

このBって奴は、

もう見えてしまってるんですわ」

 

旦那さんがそう言った瞬間、

おっさんとじいさんは顔を見合わせた。

 

すると、坊さんが口を開いた。

 

「旦那さん、堂に行った

というのは彼ですか?」

 

「いえ。実際行ったのは、

この○○(俺の名前)って奴で」

 

「ふむ」

 

「Bは下から覗いていた

だけらしいんです」

 

「そうですか」

 

そして少し黙った後、

坊さんはBに聞いたんだ。

 

「あなたは、この様な経験は

初めてですか?」

 

Bが聞き返す。

 

B「この様な経験?」

 

「そうです。この様に、

霊を見たりする体験です」

 

B「え・・ないです」

 

「そうですか。

不思議なこともあるものです」

 

B「・・・俺」

 

Bが、何か喋ろうとしていた。

そこにいた全員がBを見た。

 

「はい」

 

B「俺・・・死ぬんでしょうか?」

 

そう言ったBの腕は、

正座した膝の上で突っ張っているのに

ガクガクと震えていた。

 

すると、坊さんは静かに答えた。

 

「そうですね。このままいけば、

確実に」

 

Bは言葉を失った様子だった。

 

震えが急に止まって、

畳を一点食い入るように見つめだした。

 

それを見たAが口を挟んだ。

 

A「死ぬって」

 

「持って行かれるという意味です」

 

意味を説明されたところで、

俺達はわからない。

何に何を持って行かれるのか。

 

さらに坊さんは続けた。

 

「話がわからないのは当然です。

○○くんは、堂へ行った時に

何か違和感を感じませんでしたか?」

 

坊さんが堂といっているのは、どうやら

あの旅館の2階の場所らしかった。

 

それで俺は答えた。

 

「音が聞こえました。

あと、変な呼吸音が。

2階のドアには、お札の様なものが

沢山貼ってありました」

 

「そうですか。気づいているかも

知れませんが、あそこには

人ではないものがおります」

 

あまり驚かなかった。

事実、俺もそう思っていたからだ。

 

「恐らくあなたは、その人ではない

ものの存在を耳で感じた。本来ならば、

人には感じられないものなのです。

誰にも気づかれず、ひっそりと

そこにいるものなのです」

 

そう言うと、坊さんは

ゆっくりと立ち上がった。

「Bくん、今は見えていますか?」

 

B「いえ。ただ音が、さっきから

壁を引っ掻く音がすごくて」

 

「ここには入れないということです。

幾重にも結界を張っておきました。

その結界を必死に破ろうとしているのですね。

 

しかし、皆がいつまでも

ここに留まることは出来ないのです。

 

今からここを出て、

おんどう(字不明)へ行きます。

 

Bくん、ここから出れば、

またあのものたちが現れます。

また苦しい思いをすると思います。

 

でも必ず助けますから、

気をしっかり持って付いて来てくださいね」

 

Bは、カクカクと首を縦に振っていた。

 

(続く)リゾートバイト(本編)10/14へ

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