厳しく睨むモノと優しく寄り添ってくれるモノ
これは、友人から聞いた神様にまつわる話。
友人のジョン(仮名)は信仰心の強いアメリカ南部生まれで、ジョンの実家も当然熱心なキリスト教徒だ。
週に一度の礼拝は家族みんなで行き、欠かしたことがない。
でも、ジョンだけはこの礼拝が苦手だった。
理由を聞けば、「上の方から見られているから」だと言う。
この国では厳しいものに会ったことがない
教会の天井より、もっとずっと上の、とても高い所から誰かがこちらをじっと見ているのが分かる。
それも凄く威圧的で厳しく、見張られているように感じてやたら緊張する。
例えるなら、とても厳しい教師や警官に、じっと見つめられている居心地の悪さを10倍にしたくらいの視線だ。
それが終始上から降り注いできて、怖くて怖くてたまらない。
両親に相談してカウンセラーにも通ったが効果は無く、大人になってもまだ感じる。
必然的に教会から足が遠のき、逃げるように故郷を出て、無神論者のように振る舞ってきた。
そんなジョンが仕事の都合で日本にやってきた。
打ち合わせも早く終わって時間が空いたので、せっかくだからと近所を散策したら緑に囲まれた公園らしい場所があった。
湿気の多い日本の夏に大汗をかきながら、一休みしようと目についた木陰のベンチに腰を下ろす。
すると、ふっと涼しい風が吹いてきた。
ああ気持ちいいなと目を閉じた瞬間、感じたそうだ。
「横に何かがいる・・・」
それは大きく、ゆったりと呼吸している動物のような気配。
こちらを意識しているようだが視線を向けるでもなく、のんびりと寝そべっているようなリラックスした気配。
ジョン曰く、とても大きい犬を想像したらしい。
教会の上にいたモノと似ているが、異なる何か。
あちらは同じ場所にいるとじっとり汗が出てくるほど緊張するのに、こちらの何かはとてものんびりしていて全く怖く感じない。
自分を睨んでくるでもなくただ横にいて、「暑いだろう。まあ休んで行けよ」と言わんばかりに涼しい風がそちらから吹いてくる。
あっという間に汗が引いて目を開けると、そこには小さな建物があった。
建物の左右には石で出来たトーテムが建っており、白い獣がこちらを向いていた。
そう、お稲荷様の神社だった。
ジョンはもう青天の霹靂のような気持ちで、人生がひっくり返ったような衝撃を受けた。
「冷たく厳しく睨んでくる奴ばっかりだと思っていたら、優しくのんびり寄り添ってくれるモノに出会った。お高くとまっていなくて、まるで余所者の僕を昔から知っている友人みたいに歓迎してくれたんだ。そんなの好きにならずにいられないよ」
ジョンはそれから程なく再来日して、今も日本に住んでいる。
大きな休みが取れると、各地の神社仏閣を巡る彼。
まだ一度として、この国では『厳しいモノ』に会ったことがないという。
(終)