死神に命を差し出した夜
これは、母から聞いた不思議な体験話。
去年の暮れ、母が突然入院した。
病気の症状ははっきり出ていなかったらしいのだが、“寝ようとすると金縛りに遭い、黒い影のようなものが顔を覗き込んで「もうすぐ…」と言って消える”という妙な体験もあり、念のための検診だった。
検診の結果、即入院に。
内臓に穴が開いていて、命に関わるところだったそう。
入院中はその影も現れず、「もしかしたらご先祖様が教えてくださったのかしらね?」と、母も言っていた。
ところが明日退院という日の晩、その影は現れたという。
看護師の見回りとは明らかに違う真っ黒な影が、嫌な雰囲気をまとって母の顔を覗き込んだそう。
(これはご先祖様とは違う。死神のような…)
そう感じた母は、心の中で「私の命を持って行くなら仕方ない。だけど、まだまだ子供たちに手がかかるのよ。おとなしく命を差し出す代わりに、私に代わって子供たちの面倒を見てやって。下の子はアトピーでダニやホコリがダメだから毎日掃除して。上の子は着る物に無頓着だから…」と言っている途中で、その黒い影は「チッ!」と舌打ちをして消えたそう。
以来、母の体調はすこぶる良い。
ただ、「死神すら持て余すようなあんた達の世話をしているお母さんに感謝しなさい」と、毎日のように言われている。
(終)
AIによる概要
この話が伝えたいことは、母親の深い家族愛と命の大切さ、そして困難に立ち向かう力強さです。母親は死神のような存在に直面しながらも、子どもたちの未来を最優先に考え、自分の命を引き換えにしてでも守りたいという強い意志を示しました。また、偶然の検診が命を救い、その出来事を運命や見えない力のおかげと感謝する姿勢は、日々の生活の中で命の尊さを再認識させてくれます。さらに、死神を退けた体験をユーモラスに語る母親の姿は、困難な状況でも前向きでいることの大切さを教えています。この話は、家族の絆や感謝の心、そして超自然的な存在が人生に与える影響を考えさせられる内容です。