友達が怪しいバイトの依頼を受けてきた 1/2

懐中電灯

 

3月の春休み中の事なのだが、友人が怪しいバイトの依頼を受けてきた。

 

そのバイトの内容というのが、「関西にある某政令指定都市で空き家になっている家の片付けをやって欲しい」というもの。

 

2泊3日で、交通費以外に一人3万円も出すという。

 

目的の家は電気も水道もガスも通っており、二人分の布団もあるから宿泊にも何の問題もないとか。

 

これだけでもかなり怪しいのだが、友人がバイトを受けた状況というのが、「パチンコに行ったら常連のおっさんから頼まれた」という、更に怪しいものだった。

 

友人はおいしいバイトだとノリノリで俺を誘ってきたのだが、どう考えても怪しすぎる。

 

最初は断ろうと思っていたが、実質2日で一人3万円はおいしすぎる上に、ちょうどPCのグラボとHDを新調したかったので受ける事にした。

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出入り口を封鎖された部屋から

当日、新幹線のチケットや片付けの手順、現地までの道のりのメモをおっさんから貰い、俺達は関西の某政令指定都市へ向けて出発した。

 

現地に着くと、家はかなり広かった。

 

敷地は300坪近くあっただろうか。

 

しかし、庭は枯れ草で埋め尽くされ、池は濁っていて生き物の気配すらない。

 

明らかに10年以上は人が住んでいない。

 

外見は立派だが、廃墟のような雰囲気の家だった。

 

その日はまず2階から片付ける事にして、夜の8時頃までゴミの分別や家具を1階に下ろす作業をし、力仕事が多く大変ではあったが、特に何事もなく終った。

 

近場のファミレスで飯を食い、家に戻ってくると何かがおかしい。

 

上手く説明できないのだが、玄関を入った瞬間に全身の毛が総毛立つとでも言えば良いのか、なんともいえない悪寒に襲われた。

 

原因は全く分からない。

 

友人も同じだったらしく、隣を見ると青い顔をしているように見える。

 

しかし、特に何かがあるわけではなく、お互いその不安を全く口に出せず、そのまま風呂に入って寝る事にした。

 

2時間ほど経った頃だろうか、俺は友人に体を揺すられて起された。

 

「・・・なんだよ」と文句を言おうとしたが、その時に起した理由が何なのかすぐに分かった。

 

俺達は1階の玄関に近い場所にある居間で寝ていたのだが、ちょうど対角線上にあたる一番奥の部屋辺りから人の話し声が聞こえてくる。

 

俺達は、ここに誰か来るなんて話は一切聞いていない。

 

かなり怖かったし、何かトラブルに巻き込まれるんじゃないかという不安はあったが、そのままにしておくような事も出来ないので、話し声のする方を確認しに行く事にした。

 

暗がりの中を部屋の近くまで行き、「誰かいるんですか~?」と何度か声をかけたのだが、相変わらず部屋からはボソボソと何を言っているのか聞き取れない複数の話し声が聞こえてくるだけで、俺の声には全く反応しない。

 

そこで、少し大きな声で呼びかけようとしたところ、友人が俺の口を塞ぐと、玄関の方へ引っ張って行こうとした。

 

俺は「なんだよ」と言おうとしたが、あまりにも友人が必死な形相なため、素直に玄関の方まで歩いて行った。

 

そこで、あらためて友人に「なんだよ」と訊くと、友人は震えた声で「あの部屋、ドアに外側から板で目張りされてたぞ。どうやって中に人が入るんだよ・・・」と言う。

 

俺は近眼なうえに暗かったため気付かなかったが、友人が言うにはどう考えても人が出入りできるような状況ではない形で、板がドアに打ち付けられていたらしい。

 

友人はかなり怯えていて、それは俺も同じだったのだが、不安を隠すように友人にこう言った。

 

「きっと、外側に入り口が別にあるんだよ。とりあえず確認しに行こうぜ」と。

 

玄関を出て家の裏側に行く事にし、草を掻き分けてその部屋があるであろう場所まで行った時、俺の『別の入り口がある』という希望的観測は無意味だった事に気が付いた。

 

部屋には窓があったのだが、その窓にも外から板が打ち付けられており、他に出入り口らしきものもなく、どう考えても人が出入りできる状況にはなかった。

 

しかし、外からでもボソボソとその部屋から話し声がするのは分かる。

 

俺は何がなんだか分からず、頭の中で合理的な解釈をいくつも考えたのだが、どれも当てはまらない。

 

どうしたらいいか分からず、しばらく二人で顔を見合わせていたのだが、このままでは埒が明かないため、よせば良いのに板の隙間から懐中電灯を照らして中がどうなっているのか見てみる事にした。

 

(続く)友達が怪しいバイトの依頼を受けてきた 2/2

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