夢の中に箱が出てきても絶対に開けるな
これは、怖いのかどうかがよく分からなくて今でもモヤモヤしている話。
ウチの地域の子供たちは、必ずあることを親から言い聞かされている。
それは、『夢の中に箱が出てきても絶対に開けてはダメだよ。その箱を開けたらとても恐ろしいことが起こるから』と。
大学生の頃、地域の伝承について調べる機会があり、俺はその『箱』について調べてみた。
箱を開けたせいで・・・
基本的に口伝で伝えられてきた話らしく、市営の図書館にもあまり資料はなかったが、そんな中でもある程度詳しく書いてあるものを見つけた。
それは地域の民話が集められた本で、そのうちの一つに箱の話が書いてあった。
その本の内容を以下に要約する。
// ここから要約 //
その箱の夢を最初に見た男は、江戸時代中期の、ある宿屋の息子。
その男は、夢を見る度に妙な二つの箱が必ず出てくるのを不思議に思っていた。
親に聞いてみても知らないし、箱の中身を確かめてみようにも夢の中では自由に動けない。
そんなある日、男は夢の中でコレは夢だと認識ができ、夢の中で自由に動ける、いわゆる明晰夢を見た。
男は早速、二つある箱の大きい方の箱を開けて中身を確かめてみようとした。
しかし、中身を確かめることは出来なかった。
なぜなら、箱を開けた瞬間、叫び声を聞いて目を覚ましたからだ。
叫び声をあげたのは、隣に寝ていた父親だった。
父親は息絶えていた。
父親は特に病気などを持っていたわけでもなく、至って健康な人だった。
そんな父親が突然に死んだ。
男は夢の中の箱を開けたせいだと直感的に悟った。
そして、もう一つの箱を開けた時は母親が死ぬのだろう、ということも。
男はもう一つの箱は絶対に開けないと強く誓った。
そうして何年か経って男も結婚し、子供が生まれた。
父親が死んだ後に母親と二人でやってきた宿屋の仕事も、どうにか軌道に乗ってくれた。
それからさらに数年、母親が病に倒れた。
当時の医療技術では治る見込みもなく、薬代もバカにならない。
男の家族は厳しい生活を余儀なくされた。
母親は何度も何度も息子夫婦に謝罪を繰り返し、時折「死にたい」とさえ呟いていた。
そんな日々が暫く続き、男はとうとう決心した。
箱を開けよう、と。
そして次に明晰夢を見た時、男はもう一つの箱を開けた。
今度は中身を確かめることが出来た。
箱の中には、母親の名前が書かれた紙と髪の毛が入っていた。
翌朝に目を覚ますと、やはり母親は死んでいた。
男は両親を自分が殺した罪悪感を感じながらも、あの箱から解放されたことに少し安堵していた。
「お父さん、いつも夢の中に変な箱が出てくるんだけど、何か知ってる?」
娘がそんなことを聞いてくるまでは・・・。
// 要約ここまで //
この話を、今年の始めにあった中学の同窓会でふと思い出し、みんなに話してみた。
すると、俺以外にもその箱について調べた者が何人かいた。
ほとんどは俺が調べた事と同じ内容だったが、島田(仮名)だけがもっと詳しく調べていた。
島田は、その箱の呪いのようなものが生まれた経緯まで調べることが出来たらしい。
俺は気になって聞いてみたが、断固として教えてくれなかった。
そして島田は俺たちに、「これ以上は絶対に調べるな」と釘をさしてきた。
理由は分からなかったが、あまりにも真剣に言ってくるのでとりあえず頷いた。
俺はその後、島田に言われたとおり調べたりせずに忘れてかけていたが、最近になって他の奴から箱の件についてメールが送られてきた。
内容は、『島田が言った通り、あの箱の由来については絶対に調べるなよ』と。
(終)
なんでだよ