忘れられない一夜と翌日の電話

廃墟

 

これは、僕が中学1年生の時に体験した話。

 

むせ返るような暑い夜、僕と同じくオカルト好きな友達2人と共に、地元でも評判の『廃屋』に忍び込んだ。

 

夏休みということもあり、時刻は雰囲気的に盛り上がりそうな丑三つ時を選んだ。

 

その廃屋は山の中腹くらいにあり、自転車で行くにはきつかったが、なんとか辿り着いた。

 

ログハウスのような木造のその建物は、周りを蔦で覆われて鬱蒼としており、僕はそれだけで怯えた。

 

暗闇にそびえ立つその建物は、あまりにも雰囲気が抜群で、着いた瞬間に帰りたくなった。

 

しかし、ヘタレだと思われるのが嫌で、口には出さなかった。

 

後に聞いたところ、友達たちも誰かが帰ろうと言い出すのを待っていたらしい。

 

今来た道を振り返り、アスファルトなど人工的なものが見えるだけで、どこか安心する。

 

意を決してドアの前に立つ。

 

『宮村』という表札が見える。

 

緊張と覚悟のため、小さく溜息をついてからノブを回した。

 

すると、あっけなくドアは開いてしまった。

 

「よし、入れるぞ!」

 

言葉とは裏腹に、開かなければよかったのにと思っていた。

 

廃屋の中は外観と同じように荒れ果てていた。

 

明かりはなく、床にはガラスや湯飲みの破片が散乱している。

 

ここは中学生の耳にも入る心霊スポットで、過去にも先客が訪れたのだろう。

 

用意していた懐中電灯を床から壁に向ける。

 

解読不能な文字を使ったポスターやら掛け軸が映った。

 

熱心な宗教家でも生活していたのだろうか。

 

そういう家は得てしてオカルトの題材として使われやすい。

 

恐怖からか、頭がクラクラする。

 

油断をすると気を失ってしまいそうになる。

 

「気をしっかり持て!」

 

そんなセリフはこんな時に言われるとベストかなと、くだらないことを考えた。

 

歩を進めていく。

 

その間も、「僕が真ん中がいい。おまえが先頭いけよ」などと、小競り合いをしていた。

 

そして、おそらくダイニングと思われるところに差し掛かった時、テーブルに無傷のグラスを発見した。

 

イタズラ好きな僕はそっと手に取り、友達が視線を逸らした瞬間、部屋の隅に向かって投げた。

 

ガシャーン!!

 

静寂を突き破る。

 

友達2人は「うわああ!やべえって!」と半狂乱に陥り、凄いダッシュで玄関に向かった。

 

僕は笑いが止まらなかった。

 

僕がやったのに…と思っていたが、さすがに1人きりでこの廃屋に留まるわけにもいかず、すぐに後を追った。

 

その帰り道、「あれ、僕がグラスを投げたんだ。ほんとごめん」と謝ったが、友達はいつまでも激怒していて、こう言い返してきた。

 

「だから笑ってたのか。てっきりおまえが取り憑かれたのかと思ったよ。それで余計に怖くなってさ」

 

しかし、それだけでは終わらなかった。

 

翌日、家族で晩ご飯を食べている時に電話が鳴り、母が受話器を取る。

 

「はい〇〇です。ええ、おりますが。今代わります」

 

「誰?」

 

「宮村さんて男の人」

 

「もしもし」

 

ツーツーツーツー。

 

「切れてるじゃん。宮村って誰?イタズラ?」

 

今でもよくわからない電話だった。

 

(終)

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