道端に放置された棺桶

5年前、

 

バイクでツーリングしていた時、

富山県のかなり田舎の山道を通った。

 

昼過ぎだったと思うが、

山中の小さな村で、

 

葬式が行われているところに

出くわした。

 

出棺の最中のようだったが

霊柩車で運ぶのではなく、

 

大勢の村民で棺桶をみこしの様に

掲げての出棺だった。

 

どうやら村中の家を回ってから

火葬場に行くらしく、

 

色んな家に立ち寄っていた。

 

道が限られており、

 

私はその行列の真横を

通り過ぎねばならない、

 

状態になった。

 

見慣れぬ来訪者の私に、

 

村民は珍しげな表情を

送っていたが、

 

仕方なく通り過ぎた。

 

その日は、とある旅館に泊まり、

次の日に帰宅する予定だったので・・・。

 

朝早く旅館を出て、

元来た道を走っていたが、

 

あの村をまた通ることになった。

 

まだ朝早かったので、

 

薄暗い中、あの行列がいた

道を通ろうとしたが、

 

薄明るい中、道端に

あの棺桶が放置されていた。

 

ギョッとしたが、

さらに驚いたのは、

 

棺桶の横に、死に装束の

おばあちゃんが立っていた。

 

そして、

そのおばあちゃんは、

 

全速力で通り過ぎようとした

私に一言、

 

「まだあんたには挨拶してなかったね」

 

(終)

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