心霊スポットで撮ってきた危ない写真 2/2
守「あの写真を見せるんじゃなかった。ふざけてて油断してました」
守「最初に言いましたよね。アレを見て思ったことを口に出すとヤバいと。だから、説明することが出来ない」
守「口にしただけで、またすぐにアレが来ます。俺には来るのを止められない。言っときますけど、あそこはマジですから。ホントにシャレになりません」
彼いわく、二人が心霊写真を撮ってきたK野神社は、この辺りでは最凶の有名なスポットだ。
守「あそこは関東の西の要。ここら辺を東西南北に通る、霊道の交差点みたいなもんです。あそこを通る連中には、時折凄いのが稀にいます」
守「よく分からないけど、凄く冷たくて速い奴とかもいる。そいつが通った場所は一瞬で空気が無くなる」
守「それで物が裂けたり、凍ったりする。現象的には鎌鼬(かまいたち)に結構似ているやつです。さっき来たのが、まあソイツですけど」
(おい、やけに詳しく説明してないか?また来ちまうだろ、ソイツが)
ということは、近くにいて失禁気絶したアシスタントは、本当に運が良かったに違いない。
守山くんの言ったモノにまともに当たっていたら、冷凍バラ肉になっていたかも知れない。
守「本当にすみませんでした。止められなくて」
殊勝にも、モリヤマくんは改めてそのアシスタントさんに土下座までして謝罪した。
※殊勝(しゅしょう)
心掛け・行いなどが、けなげで感心なこと。
先生も、しまいに天井を見上げながら言った。
先「もういいわ。これ以上聞くと、俺が引っ越さなきゃいけなくなりそうだ」
確かに、ここは先生の自宅だし。
これ以上、事が深刻になると仕事に触るだろう。
守山くんは少し黙って、表情を曇らせた。
守「まあ、あいつのことなら少しは話せます。逆に理解してやって欲しいし」
(鈴木さんのことか?)
守「最初、中学であいつに会った時、俺も本気で心配になりました。クラスみんなで最初に自己紹介やった時も、あいつだけ”事故”紹介ですって言って笑ってやってましたから」
守「霊媒体質っていますよね。よく色んなのが憑いちゃって肩を重そうにしてる人。でも普通は自分の魂のおかげで、そうそう入っては来れません」
守「しかしあいつの場合は、憑け込まれる場所というか、容量が普通の人より大きいんです。というより、スカスカなのでスポンジみたいにどんどん入ってきちゃう」
守「この前、あいつのアパートに行ったら、順番待ちが部屋の外まで溢れていました。笑っちゃったのが、外に溢れた連中が列を作って待ってるんですよ」
(順番待ちの連中ってなんだ?)
(スポンジみたいにスカスカってどういう意味だ?)
守山くんは話を続ける。
守「俺、あんまり音の方は聞こえないんです。逆に耳が良すぎて雑音が入ってくるんで感じられないんです。どっちかというと見えちゃう方」
守「六つ子くらいの胎児みたいなやつ、何があったかパンパンに膨れた女、ずーっと叫んでるような顔をしてるおばさん、潰れたゴキブリ、良く分からない白いブヨブヨしたもの、青ざめた顔でドアをノックし続けてるハゲ・・・」
守「5メートルくらいの顔の無い人、脳みそが出て首をカクカクさせている小学生、首も手足もないけどジタバタしてる肉塊、首が50センチくらい延びちゃって上向いてる人・・・」
守「ハラワタの出たネコ、同じ場所を回り続けてる小人、頭から足の生えてるカラス、人の形をした焦げた皮、あ、あと手とか足だけってやつもいました」
守「そいつらが全部、あいつに取り憑く順番を待っていた」
ぶぅげえぇおええ!
さっき失禁気絶したアシスタントが、今度は今まで飲んでたものを吐いた。
守「色んなのが入ってくるので、あいつの何が主体の憑きものか俺にも分かりません。すみません。これ以上は詳しく言えません」
(いや、もうかなり詳しいだろ)
僕は再びアレを呼び込まないように、思わず口に出さないように注意して、自分なりに頭の中だけで整理してみた。
(あの影は悪魔じゃない。鈴木さんに入ってくる、その色んなモノが影になって写ったのだ。・・・キメラだ)
※キメラ
同一個体内に異なった遺伝情報を持つ細胞が混じっていること。またそのような状態の個体のこと。
鼻をすすりあげる音が聞こえた。
守山くんだった。
いつの間にか彼は涙ぐんでいた。
そしてグシャグシャに泣きながら、言った。
守「あいつ、元から半分なんですよ。魂が・・・」
(終)