幽霊よりも生きた人間の方が恐ろしい
俺が小学生の頃に聞いた、先生の体験談。
地元では有名な事件だ。
1945年の7月某日、傷病兵や動員された学徒など1000人以上で満員だった列車が米軍艦載機の攻撃を受けた。
調べると、艦載機40機による、30分に渡っての凄まじい無差別攻撃だったようだ。
赤十字の付いた傷病者の車両も攻撃された。
話してくれたのは家庭科の老先生。
当時、小学校に上がる前のことだったという。
先生が生き残ったのは奇跡的だった
なんでも、走行中の列車に突然上空から戦闘機がたくさん飛来し、機関銃(おそらく12.7mm機銃)で撃ちまくられた。
列車の中はパニックになり、列車が止まると他の乗客と同じく、先生は両親ともに車外へ逃げた。
そこへ、艦載機の攻撃が再び来たという。
逃げまどう人々に、容赦なくあびせられる弾丸。
機関銃の放った弾丸が、きれいな間隔で地面に土煙を上げていた。
ネットで見たことがあるが、12.7mmの弾丸で撃たれると、1発でも人間の体は真っ二つに千切れ飛んでしまう。
「地獄だった」
そう先生は言っていた。
わかる。
そんな弾丸が雨のように降ってきたらどうなることか・・・。
そして、先生が生き残ったのは奇跡的だった。
両親とはぐれた先生が懸命に捜そうとして走ろうとした時、誰かが足を掴んだ。
おそらく、撃たれてのたうち回った者が反射的に掴んだのだろう。
その拍子に先生は転んだ。
その時、「ドドドドドドドドドドドドド」と音を立てて目の前に土煙が並んだ。
そう、転んでいなかったらミンチになるところだったのだ。
だが、先生のご両親はその銃撃の犠牲となったという。
夏になるとこの話を思い出す。
俺が「幽霊よりも生きた人間の方が恐ろしい」と感じるのは、多分この話が頭の中にこびりついているからかもしれない。
(終)