ラフレシアという世界最大の花を求めて

ラフレシア

 

4~5年ほど前に、

取引先の人から聞いた話。

 

その人が言うに、

 

もうだいぶ前の出来事とのことだから、

少なくとも10年以上前だと思われる。

 

インドネシアにA氏(話してくれた人)

B氏、C氏の3人で仕事に行った。

 

仕事といっても、

 

半分は遊びを兼ねたような

旅行だったらしい。

 

そんなわけなので、

 

仕事が終わってから

10日近い暇ができ、

 

最初の2~3日はのんびりと

観光を楽しんでいた。

 

3人とも現地は初めてではないので、

なんとなく退屈さを感じていたところ、

 

B氏が、

 

「ラフレシアを見てみないか?」

 

と言い出した。

 

ジャングルに入るには、

やはりガイドが要る。

 

C氏がツテを辿ってガイドを探したところ、

幸いにも引き受けてくれる人が見つかった。

 

翌日、

3人はガイドのいる町へ向かった。

 

そしてガイドと落ち合い、

装備を調達すると、

 

その町の安ホテルで1泊した翌早朝、

 

ガイドを含めた4人は、

ジャングルへと分け入った。

 

念のためにラフレシアについて書いておくと、

巨大な寄生花であるこの植物は、

 

数が少ない上に開花する時間も僅かで、

なかなかお目にかかることは困難である。

 

ラフレシア

ラフレシア(wikipedia)

 

ガイドにも「期待はしない方がいい」と、

予め念を押された。

 

まずは蕾を探し出し、

 

その蕾が開花するまで待って

花を見るというのが普通だが、

 

日帰りで何日かジャングルに分け入っても、

まず無理だろうとのことだ。

 

それでも、

たまにはジャングル探検も悪くない。

 

何かの話の種になるだろう。

 

3人はそんな気分であったということだ。

 

1日目、

何の成果もなく終わった。

 

A氏はジャングルに分け入るということが、

こんなにも大変だとは思わなかったという。

 

何と言っても蒸し暑く、

体力の消耗が酷い。

 

おまけに害になる生き物にも、

常に注意を払わなければならない。

 

おそらく、

他の二人も同じ気持ちであったろう。

 

2日目。

 

昨日とは方向を変えたが、

これまた成果無し。

 

疲労困憊でホテルに帰る。

 

いい加減嫌にはなっていたが、

せっかく来たのだからと、

 

明日もう一日だけ

頑張ってみることにした。

 

そして3日目。

 

当然、1日目、2日目とは、

方向を変えて分け入る。

 

しかし、やはりというか、

 

蕾さえ発見出来ぬまま、

時間は過ぎてゆく。

 

幾分早い時間だが、

かなり疲れもあって、

 

諦めて戻ろうということになった。

 

ガイドにその旨を告げると、

4人は道を引き返した。

 

2時間半ほど歩いた頃、

列の最後尾にいたB氏が声をあげた。

 

B氏が指差す方を見ると、

遠くに何やら赤茶けた塊が見えた。

 

「あれ、ラフレシアじゃないのか?」

 

ガイドは目を細めるようにして見ていたが、

突然、顔を引きつらせた。

 

「・・・急ごう!

黙って付いて来なさい!」

 

ガイドは小走りに進み始めた。

 

なおもそれを気にして

足の進まない3人に、

 

振り向きざま言った。

 

「命が欲しいのなら急ぎなさい!」

 

只ならぬガイドの雰囲気に、

3人は慌ててガイドの後を追った。

 

しばらくすると、

生臭い臭気が漂ってきた。

 

ふと振り返ったA氏の目には、

 

赤茶けた物体がさっきより確実に

近いところにあるのが映った。

 

動いているのか?あれは!

 

この臭いがあの物体から

発せられているとしたら、

 

あれはラフレシアではない。

 

実際に臭いを嗅いだことはないが、

ラフレシアは肉の腐ったような臭いのはず。

 

なのに今漂っているのは

生臭さである。

 

A氏は、

あれがラフレシアではないどころか、

 

何か得体の知れない『嫌なモノ』

であることを確信した。

 

自然に足が速まる。

 

ガイドはもちろん、

B氏、C氏もそれに感づいたようで、

 

自然と一行の足は速くなった。

 

生臭い臭気は、

徐々に強くなっている気がした。

 

後ろを振り返ってみようと思うが、

恐怖でそれも出来ない。

 

後に続くB氏、C氏の二人も、

A氏を追い抜く勢いでぴったり付いて来る。

 

普通の道ではないから、

全力疾走というわけにはいかないが、

 

可能な限り、速く走った。

 

ようやく、

自動車の通れる道が見えてきた。

 

ふと振り返ると、それはもう

10メートルに満たない距離にいた。

 

その距離で分かったのだが、

 

それの大きさは2メートル近く、

直径70~80センチもある寸詰まりで、

 

巨大なヒルのような感じであった。

 

道に出ると、

 

ガイドが足を止め、

荒くなった呼吸を整えている。

 

3人も立ち止まった。

 

「もう大丈夫だと思います」

 

ガイドが息を切らせながら言った。

 

A氏は安堵のあまり、

その場に座り込んだ。

 

他の二人も真っ赤な顔をして

しゃがみ込んだ。

 

落ち着いてみると、

もうあの臭いはしない。

 

ジャングルの中を見たが、

 

木々が日光を遮っているせいで、

様子は分からない。

 

「あれは、何なのか?」

 

ガイドに尋ねたが、

 

首を振っただけで

何も答えてはくれなかった。

 

結局、

ホテルに着いても、

 

「あのことは忘れてください。

 

私も詳しくは知らないし、

忘れた方がいいですよ」

 

と、あれが何かは教えてもらえなかった。

 

後日、

 

C氏が仕事でインドネシアに行った時、

かなり方々でこの件を聞きまわったようで、

 

いくらかの情報を得ることが出来た。

 

それは『人を喰うもの』で、

人を見つけると執拗に追いかけ、

 

人が疲れて動けなくなった時、

襲い掛かってくるという。

 

太陽の光が好きではなく、

 

あの時、

もし早めに切り上げていなかったら、

 

ジャングルを抜け出しても追って来て、

逃げ切れなかったかも知れなかった。

 

それを見たら、

現地の御祓いを受けなければならない。

 

御祓いを受けなければ、

 

それは追いかけた人間を忘れず、

執拗に狙ってくる。

 

3人は御祓いをしなかったが、

 

すぐに日本へ帰ったので、

難を逃れたのではないか。

 

そして、

 

その名前は分からないというよりも、

口にしないということであった。

 

(終)

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