お祭りの音が聞こえても行ってはいけないよ
これは、家で留守番をしていると『お祭りの音』が聞こえてきた時の話。
最近引っ越して来たウチの周りは、すごく静かな住宅街。
線路沿いに家が建っているので、電車が通る音もよく聞こえる。
昼間は道路で遊ぶ近所の子供の声が丸聞こえだ。
ちなみにウチは5人家族で、両親、姉、弟、そして俺。
「お祭りの音が聞こえるのかい?」
ある日のこと、家族で姉の買い物に付き合おうとなった時、弟と俺はパスした。
なぜなら姉の買い物は長いし、弟も小さかったし。
二人で留守番をしていると、弟が突然「ねえ、なんかお祭りやってるの?」と言い出した。
はぁ?と思いながらも、弟が言うように外の音に耳を澄ますと、祭囃子のような太鼓の音が聞こえてくる。
「おお、マジか!」と二人してテンションが上がり、外に出ようとした時にちょうど家族が帰ってきた。
そして母が、「あんたらこんな時間から何しに行くのよ?」と言えば、弟が「お祭りの音がする!」と返す。
しかし、両親と姉は「そんなの聞こえなかったわよ?」と。
家の中に居て聞こえるのに、外に居て聞こえないわけがない。
なのに、三人とも「聞こえてない」と言う。
実際、その日は祭りなんてなかった。
結局は弟と俺の聞き間違いということになったが、それから1週間くらいした頃、またあの祭囃子の音が聞こえてきた。
今度は俺一人で留守番をしていた時だ。
「ドン!ドン!ドン!」と確かに聞こえてくる。
気になった俺は、サンダルを突っかけて外に出てみることにした。
どうやら駅の方から音が聞こえてくる気がして、とりあえず向かおうとした。
ちなみに、ウチのお隣さんはおじいちゃんとおばあちゃんの二人暮らしで、古くからこの街に住んでおり、越して来たばかりのウチの一家にとても優しいご夫婦。
外に出た時、そのご夫婦の奥さんが家の前を掃除していたのだが、いきなりホウキを置いて俺の腕を掴み、「お祭りの音が聞こえるのかい?」と尋ねてきた。
正直、怖かった。
このおばあちゃんは人の心が読めるのか?と思った。
俺は「はい」と言って頷くと、おばあちゃんは突然真顔になって「行ってはいけないよ」と言い、さらに腕を強く掴んだ。
いつも優しいおばあちゃんだから、その言動に驚いた。
おばあちゃんは続けて、「ここら辺でお祭りは絶対にやらないの。だから行っちゃダメよ」と言った。
理由は教えてくれなかったが、その顔が凄く真剣で逆らえなかったので、その場は素直に従うことにした。
さらにおばあちゃんは顔を近づけると、「お祭りの音は聞こえても無視しなさい。人に話しても構わないけれど、お祭りの方に行ってはダメよ」と念を押した。
本当に真剣な顔だった。
訳が分からない俺は怖くてただ頷くと、やっと離してくれた腕を押さえながら全力で家まで逃げ帰った。
もしあの時にお祭りに行っていれば、どうなっていたのだろうか。
弟はあれ以来、お祭りの音は聞こえていないらしいが、俺は今でも聞こえる時がある。
おばあちゃん曰く、相手が飽きれば離れるらしいが・・・。
(終)