水にまつわる不可解な現象が続く部屋
これは、知り合いの松野さん(仮名)から聞いた話。
松野さんは今から20年ほど前に、とある木造アパートへ引っ越した。
そして入居から数日後のある朝、目が覚めると布団がぐっしょり濡れていた。
「いい歳して寝小便か・・・」
情けなく思いながら確かめるも、寝間着は濡れていない。
夜中に雨が降って窓から吹き込んだのかと思ったが、雨が降った形跡はなかった。
またある日のこと、いつものようにトイレで用を足してレバーを回すが、水が流れない。
何度試しても水は流れず、近くに住む大家さんに来てもらうことにした。
「何回やっても流れないんですよ」
試しに大家さんがレバーを回すと、あっさり水は流れた。
調子が悪いこともあるだろうと、その時はそれで終わった。
だが、その後も松野さんがやると水が流れないが大家さんがやると1回で流れる、ということが度々あった。
またある日のこと、松野さんは服を取り出そうとタンスの引き出しを引いた。
「あっ」
3段目を引いたところ、中が水で満たされていた。
そのタンスは5段式の何の変哲もない木製のタンス。
なんじゃこりゃと取り出したセーターは、絞ってみたら水がダダ漏れるほどに濡れていた。
おかしいと思って1段目2段目と見ていくが、まったく異常はない。
そして4段目を開けたところ、そこにも異常は見られなかった。
衣類から滴るほど浸水しているのなら、底を伝って4段目が濡れていてもおかしくはないのに、5段ある引き出しの中で水浸しなのは3段目だけだった。
気味が悪くなった松野さんは、大家さんにその話をした。
「何かいわくつきなんじゃないんですか?」と問いただすが、大家さんにはまったく心当たりがないらしく、事故物件でもないらしかった。
結局、その部屋に引っ越して間もなかったが、気味が悪くなった松野さんは部屋を引き払うことにした。
大家さんもトイレの件など色々と相談されていた為、違約金は請求しなかった。
その後、松野さんはその話を友人の加藤さん(仮名)に話した。
そういう類の話をまったく信じない加藤さんは一笑し、「それならあなたの代わりに私が住んでみる」と、本当にその部屋に住み始めた。
しかし結果は松野さんと同じで、加藤さんもすぐに部屋を引き払うことになった。
松野さんが言っていたように、トイレの水が流れないなど、とにかく『水』に関する不可解な出来事が次々と起こった。
余談になるが、松野さんは霊感が強いらしく、霊の目撃や体験談をいくつか聞いたことはあるが、上記の話が一番印象に残っている。
とにかく水に何かがあるのだろうが、よくわからないだけにほんのりと怖かった。
(終)