嫌な気配を感じる交差点で
この話は、母親の職場の
同僚の話である。
類は友を呼ぶというが、
その母親の同僚も、
そういったものが
見える人らしい。
その上、その同僚は
好奇心旺盛で、
怖いもの見たさに、
心霊スポットなどに好んで
出入りするという、
少々風変わりな人だ。
母が聞いたという、
その同僚の経験談を
紹介しようと思う。
群馬県の某T市。
大きい街なので、
群馬県在住の人間なら
分かるかもしれない。
母の同僚は仕事の関係で、
T市で車を走らせていた。
その交差点に
通りかかった時、
一目で誰かが死んでいるな
と分かった。
交差点の路側帯には、
花と線香が手向けて
あったからだ。
これだけ交通量の多い道路だ。
死亡事故の一つは起こっても
おかしくはないのだが、
母の同僚は何か、
嫌な気配を感じていた。
「ここは引っ張られるのかもしれない」
そんな事を考えながらも、
その時は何事もなく、
その交差点を抜けて
取引先へと向った。
それから数日後、
母の同僚は
再び仕事の関係で、
T市の取引先へと
向うこととなった。
その取引先での
仕事の帰り、
少々仕事に
手間取ってしまい、
取引先を出たのは
夜になってしまった。
取引先からの帰り道、
まだ記憶にも新しい、
花の手向けてあった
交差点に差し掛かった。
「夜に通るのは何かイヤだなぁ」
と思いながら、
その交差点を
通過しようとした、
その時!
交差点の中ほど、突然、
ハンドルが右に取られた。
自分でハンドルを
きったわけではない。
なぜなら、
ハンドルを握る手が
一つ多い。
手首から上だけの手が、
ハンドルの下に
ぶら下がっていて、
ハンドルを右に
きろうとしているのだ。
母の同僚は
さすがに驚いたが、
このまま右に行けば、
確実に対向車と衝突して
大事故になってしまう。
同僚は意を決して、
そのハンドルを握る
第三の手を、
力一杯の拳で叩きつけた。
するとどうだろう、
一度殴っただけで
その手は消え、
ハンドルの自由も利くように
なったのだという。
なんとか交差点を抜け、
そこからは無事に
帰宅することが出来たが、
その交差点には二度と
近付きたくないという。
違う手がハンドルを握る
という話はよく聞くのだが、
殴って撃退したというのは
初めて聞く。
(終)