安い中古車を購入した矢先に 2/2

カーナビ

 

一体何が起こったのか、

分からなかったのだ。

 

ナビはその声を最後に沈黙し、

何の反応も示さなかった。

 

二人して暫く動けなかった。

 

ようやく霧が晴れてくると、

 

満月の下に広がるのは、

 

断崖と言ってもいいような

急斜面だった。

 

私達は車をどうにかバック

させながら道を引き返し、

 

やっとの思いで

国道に戻る事が出来た。

 

それから先は二人とも

終始無言だった。

 

もし声が聞こえたら、

 

恐らくハンドル操作を

誤りそうなくらい、

 

怯えていた。

 

地図を見ながらどうにか

目的地に辿り着くが、

 

空は既に白みかけていた。

 

翌日、

出張先の人に頼んで、

 

車を引き取りに

来てもらうことにした。

 

私は怖くて

乗りたくなかったし、

 

ナビの外し方も

分からないので、

 

「調子が悪いので

見て欲しい。

 

ついでに、

 

ナビが壊れているようなので

取り外してくれ」

 

と依頼した。

 

そして、

 

あの怪しいカーナビの

業者にも電話する。

 

一体、

あのカーナビは何なのか?

 

変な由来でも

ありそうだった。

 

しかし、

 

カタログを持ってきた業者は、

私の質問に明確に答える。

 

「旧式の売れ残りだから安くした」

 

・・・と。

 

なんら怪しいところは

なかったのだ。

 

ならば・・・

 

全部、私と妻の錯覚

だったのだろうか?

 

しかし、あの山に

道なんて無いのは、

 

地元の人間に確認しても、

やはり明らかだった。

 

だが、山を越えると、

 

霊山として有名な場所に

出ると言う。

 

ところで、

 

あの車が私の元に戻る事は

二度となかった。

 

翌日の昼に修理業者から

電話が掛かって来た。

 

車を引き取りに来た業者が

工場に帰って来ていない、

 

と言う。

 

あれから十数時間は

経っている。

 

警察に連絡し、

 

そして翌日、

 

谷に転落している車が

発見される。

 

警察は、

 

ハンドル操作を誤って転落した

という見解を出したが、

 

事故現場は見通しの良い

緩やかな山道で、

 

とてもハンドル操作を誤る

ような事はないはずと、

 

警官も不思議そうだった。

 

そして、なによりも

一番気になったのは、

 

死因は『心臓麻痺』

だという事だ。

 

私と妻は、再び

黙り込んでしまった。

 

警察は簡単な聴取で

帰してくれたが、

 

気になって仕方がなかった。

 

そして、その話には

続きがあった。

 

その車は事故車だった。

 

巧妙に偽装され、

素人目には分からないが、

 

二年程前に事故を

起こしているという。

 

そんなものを購入させるとは・・・

 

私は、その警察の

証拠を持って、

 

あの中古車販売店に

怒鳴り込む。

 

だが、

 

その中古車販売店は、

 

その様な車は

取り扱っていないし、

 

裏の工場は廃棄自動車用

だと言うのだ。

 

それに、

 

そんな従業員はいないし、

 

契約書自体もこの販売店の

様式と異なっていた。

 

その上、契約する場所も

決められており、

 

私のように、

 

近くのプレハブのような所では

決して行わないと言う。

 

なら・・・私は一体、

誰と契約したのか?

 

その時、私は硬直した。

 

あの店員の目を

思い出したのだ!

 

だが、私は自分の考えを

振り払う。

 

あいつは自殺したはずだ・・・と。

 

学生時代の接触事故で

相手は軽傷であったが、

 

ある大会への切符を

失ったという。

 

あいつは恨みの篭った目で、

私を見てくれた。

 

だが、弁護士は

良くやってくれ、

 

示談という結果によって

私は罪を免れ、

 

警察の厄介になる事も

なかった。

 

示談金は親が十分なほど払ったし、

責任は取ったはずだ。

 

自殺との関連性などないはずだし、

もしあったとしても逆恨みだ。

 

私は訳が分からなかった。

 

死んだ人間が、

この世にいるはずがない。

 

なのに、

 

そんな常識的なことが、

今は確信出来なかった。

 

心配そうに見る妻には、

事の真相を話しておこうと思う。

 

それと、

 

あまりにも勧められるので、

御祓いに行く事も考えている。

 

以上が、お得意さんの日記に

書かれていた内容だという。

 

俺は焼香後、そそくさと

お得意さんの家を後にした。

 

あの型のナビを搭載した車が、

 

その後も三件の死亡事故を

引き起こしているそうだ。

 

その関係で

今日来たわけだが、

 

聞かない方が良かった

のかも知れない。

 

ナビか車か、それとも、

 

そういった場所が

原因なのか、

 

まったく分からない。

 

私はナビが原因とは

思わないのだが、

 

以降、あの型のナビは

縁起が悪いという事で、

 

うちでは取り扱っていない。

 

今も、未練を持った奴が

この国の何処かで、

 

曰つきの何かを広めて

いるのだろうか・・・。

 

(終)

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