呪われた六年一組 1/3

6年1組 教室

 

ある都市郊外の小学校。

 

六年一組の教室。

 

ここに気が弱く、

いつもいじめられている少年がいた。

 

彼の名は性格を表わすかのように、

内木といった。

 

物語はこの教室の一角から始まる。

 

それは、

休み時間のことだった。

 

「このやろー!」

 

ボカッ!

 

「うああっ!!」

 

体格の良い、

このクラスの番長的な存在、蛭田。

 

内木は彼に思いきり殴られた。

 

口元に血を垂らし、

内木はか細い声で言う。

 

「ひ、蛭田くん・・・

 

ぼく何にも悪いことしていないのに、

どうして殴るんだよう・・・」

 

蛭田は内木の顔にツバを吐いた。

 

「そんなこと知るかよ!

 

とにかくムシャクシャした時は、

テメエを殴れば気が済むんだよ!

 

パンチバッグの代わりだぜ!

ギャーハハハハ!!」

 

蛭田の子分の二人の少年、

高橋と中村も一緒になって笑った。

 

内木は何も言い返せず、

ただ泣いていた。

 

「う、ううう・・・あいつら・・・」

 

そんな様子を、

苦々しく見つめている少年がいた。

 

彼の名前は牧村。

 

彼も元はいじめられっ子であった。

 

高学年になるにつれ

体つきが大きくなり、

 

六年生になってからは、

いじめられることが無くなっていた。

 

しかし、彼は内木の辛さが

痛いほどに分かった。

 

そして、助けてやることのできない

自分を恥じていた。

 

内木を殴り、気の済んだ蛭田は、

内木の元を離れた。

 

牧村が内木に歩み寄って行く。

 

「大丈夫かい、内木くん」

 

「う、うん・・・」

 

口の根元を切り、

まだ血が垂れている。

 

牧村はティッシュを渡した。

 

「ありがとう、牧村くん・・・」

 

「・・・内木くん、先生に言おう。

もう、それしかないよ」

 

「で、でもそんなことをしたら

ボクは余計に・・・」

 

「だからと言ってこのままじゃ、

 

ヤツらのいじめはエスカレートする

一方じゃないか。

 

ボクも一緒に先生の所に行くから」

 

内木の顔には戸惑いが見える。

 

「さあ行こう、内木くん」

 

内木は小さくうなずいた。

 

彼らの担任である岩本のもとへ、

二人は職員室に行った。

 

先生なら助けてくれる。

 

そう願い、

二人は岩本に全てを打ち明けた。

 

だが、

岩本の反応は冷たかった。

 

「なんだ内木、

おまえそれでも男か!

 

そのくらい自分で解決してみろ!

 

先生にそんなことで

すがるんじゃない!」

 

内木はただ、うつむいていた。

 

「そんな・・・」

 

牧村は、岩本の答えに落胆した。

 

二人は職員室を後にした。

 

だが運の悪いことに、

 

職員室から出てくる様子を

蛭田に見られてしまった。

 

「あいつ・・・

先生に言いつけたな!」

 

その経緯も手伝い、

 

牧村の危惧していた通り、

徐々にいじめはエスカレートしていった。

 

休み時間、

 

内木がトイレに行こうとしても

行かせてもらえない。

 

授業中、

我慢の限界にきていた内木は、

 

股間を押さえ、苦しんでいた。

 

彼の後ろの席に座る蛭田が言う。

 

「おい、内木~

授業中に便所なんて行くなよ。

 

みんなが迷惑するだろ」

 

だが内木には、

 

蛭田のその言葉に返事ができるほどの

ゆとりが無かった。

 

「おい、分かってんのかよ!」

 

尖ったエンピツの先を、

内木の背中にザクリと刺した。

 

「ヒッ!!」

 

彼はたまらず小便を漏らしてしまった。

 

「ああ、汚ねえ!

先生、こいつションベン漏らしたぜ!!」

 

兼ねてよりの計画だったのか、

牧村の止める間もなく、

 

すかさず蛭田の子分の高橋と中村が

内木のズボンを下ろして、

 

彼の下半身を露にしてしまった。

 

「アッハハハハ!!」

「きたなーい!」

 

心無いクラスメートたちの

嘲笑と侮蔑の言葉が、

 

容赦なく内木を切り刻む。

 

「あああ・・・」

 

内木はしゃがみ込んで泣いていた。

 

牧村は、

無念そうに彼を見つめる。

 

彼にはこの状況で内木をかばうほどの

度胸は無かったのである。

 

いじめは蛭田と子分二人だけではなく、

やがてクラス全体に伝染していった。

 

給食の時、

当番の配膳に内木が並んでいると、

 

当番の者はわざと内木の食事を

床にこぼし、

 

それを土足で踏みつけ、

皿ですくいあげ、

 

彼に渡した。

 

戸惑う彼に、

 

当番の者は複数で内木の口をこじ開け、

無理やり食べさせた。

 

その折、

いや、彼はいじめられている時、

 

牧村にすがるような視線を見せた。

 

しかし、

 

牧村にはクラス全員を敵に回しても

内木を救う度胸は無かった。

 

その視線に気づかないふりをして、

 

そして自分は決していじめる側に

転じないことだけで精一杯であった。

 

彼は知らない。

 

いじめを見て止めなかった者。

 

その者もいじめを行っていると

同様だということを。

 

そしてある日、

 

この日はクラスで実力テストが

行われる日であった。

 

担任の岩本は前日に、

 

エンピツを削ってくるようにと

生徒たちに伝達していた。

 

内木はその言いつけを守り、

ちゃんとエンピツを削ってきた。

 

蛭田の子分の高橋が、

そんな内木の筆箱を開けた。

 

「どうだ、内木~

ちゃんとエンピツを削ってきたか」

 

高橋は削ってあるエンピツ数本を握った。

 

「あ、高橋くん、何を」

 

「なんだよ、

削ってねえじゃんかよ!!」

 

ボキィ!

 

高橋は、

内木のエンピツ全てを叩き折った。

 

「ああ!」

 

この時は牧村も勇気を出した。

 

自分の削ったエンピツを持った。

 

「内木くん!ボクのエンピツを!!」

 

だが、

その牧村の肩を蛭田が押さえた。

 

「牧村」

 

「う・・・」

 

「このクラスで内木の味方をする者は、

お前だけだぞ」

 

いつの間にか、

クラス全員が牧村を睨んでいた。

 

驚くことに、

 

女子に至るまで全ての人間が、

牧村を睨んでいた。

 

「テメエも内木と同じように

総スカン食らいてえのか?」

 

「うう・・・」

 

蛭田に睨まれ、

牧村は動けなかった。

 

これ以上、

内木の味方をすることは許さない。

 

蛭田はそう言っている。

 

牧村は内木にエンピツを渡せなかった。

 

やがて、

担任の岩本がやってきた。

 

(続く)呪われた六年一組 2/3

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