大事な原付バイクが盗まれた仕返しに

バイク置き場

 

15年くらい前の事なんだけど、

 

私の原付バイクがマンションの

地下駐輪場から盗まれた。

 

毎日の通勤や買い物で乗っていた、

大事な愛車。

 

ちぃっくしょー!

犯人、ただじゃおかねぇ!

 

と私は怒りに震えた。

 

うちのボロマンションの地下駐車場は、

暗くて入り組んでいて死角が多い。

 

そこの隅で以前、

頭髪が黄色い若者達、

 

いわゆるヤンキー風の兄ちゃん達が集って

400ccバイクを2台並べては、

 

ロウソクの明かりの元で弄くっていたり

していたのを目撃した事がある。

 

そして、

今でも集まっているらしい形跡がある。

 

もしや、あいつらが犯人か?

 

十分ありえるな・・・

と、ふんだ私はバクチに出た。

 

奴らが絶対に目にするであろう場所に、

張り紙をしてみた。

 

————————————————-

2日前、ここの駐輪場から

私の原付バイクが無くなりました。

 

持っていった人、

お願いですから返して下さい。

 

去年亡くなった友人の形見の

原付バイクなんです。

 

今月の○○日が命日です。

それまでに返して下さい。

 

友人にすまない気持ちでいっぱいです。

悲しんでいます。

 

愛車を返して下さい。

————————————————-

 

確か、こんな文面だった。

 

これをB5の紙に黒マジックで書いて、

駐輪場に貼ってみた。

 

亡くなった友人の形見というのは、

もちろん嘘。

 

命日は2週間後あたりを書いた。

 

今思うと、

 

若かった私は怒り心頭に少しワクワク

といった感じでいたわけだが、

 

これを見たマンションの他の住人は、

さぞ気味が悪かっただろうな・・・

 

さて、

 

犯人は絶対に現場に戻って来ていて

あの『貼り紙』を見ているはずだ!

 

と妙な確信を持っていた私は、

徒歩40分かけて職場を往復する毎日。

 

一応交番に行って盗難届も書いたけれど、

期待は出来ない。

 

人の物を盗むような奴の手に渡ったら、

たぶん戻っては来ないだろうな・・・

 

憎い犯人め。

 

すっ転んで骨でも折ってろ!

と怒りが沸々だった。

 

実はあの原付、

後輪がおかしい。

 

走行中に右スベリする感じ。

 

私は慣れるまでに2回もコケている。

 

バイク屋に見てもらったら、

 

「後輪のタイヤと金属部分の間が

不具合の欠陥商品です」

 

だって。

 

スピードを上げて走ると空気が抜けやすくなり、

段々とタイヤがヘナヘナになって、

 

それでオシリが振れてコケやすくなるらしい。

 

そんな欠陥が分かった途端に、

暴れん坊に盗まれたということか。

 

何だか今回の原付(これは2台目)

ツイてないなあ・・・

 

なんて思っていたら、

来ました!来ました!

 

ある日の夕方、

帰って来ていました!

 

盗まれた場所に停めてありました。

 

無残な姿でしたが・・・

 

右側全体に大きな擦過傷と、

 

後輪タイヤがダランダランに

パンクしていました。

 

ハンドルまでゴリゴリに擦りやがって・・・

どう見ても走行不能です。

 

犯人はどんな転び方をしたんだ?

こりゃ絶対に怪我しているわな。

 

「うわあぁ!祟り!?

 

ゴメンナサイ。返します。

許して下さい・・・」

 

とビビリながら、

ここまでこの原付を押して来たのかなあ?

 

あ!今日は、

嘘の『命日』の前日だ。

 

ククク・・・大成功!!

 

原付バイクは無残で悲しかったが、

 

犯人の気持ちを想像すると、

最高に楽しかった。

 

怖かっただろうなあ。

 

普通この状態なら、

どこかに放置で終わりだったと思う。

 

予想通りの犯人め。

 

ガキが甘く見るからだ!

ウヒヒヒ、思い知ったか!

 

犯人君は絶対また見に来るはずだから、

ダメ押しにもう一芝居してやった。

 

あの貼り紙を剥がし、

 

今度は線香を焚いたような演出を

原付のステップ部分に施して、

 

そのまま停めておいた。

 

そんな意地の悪い事をして

3日後だったと思う。

 

休日だったので昼頃に様子を見に行ったら、

小さい花束がシートの上に置いてあった。

 

ああ・・・何か・・・その・・・

罪悪感で心が痛んだ。

 

犯人君は若気の至りを本気で反省したんだね。

 

脅かして悪かったよ。

 

途中から楽しくなっていた私。

 

マジで怖かったんだね、

ごめんなさいね。

 

「返してくれてありがとう」

 

と、また張り紙をして、

原付は修理をして乗り続けました。

 

結局、犯人は分からず終いだった。

 

(終)

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