山中の一本の木に少し古ぼけた張り紙
これは、今から5年ほど前に体験した話です。
夏休み等を使って毎年遊びに訪れていた祖父の家は、宮崎県の山中にありました。
主に目的は川遊びで、モリ突きや釣り等をして楽しんでいました。
夏といえど1時間ほど川に入っていると体が冷えてくるので、川べりの岩の上で小休憩を挟みつつ、モリ突きで遊んでいた時のことです。
あまり人も来ないような場所だったのですが、気付けば200メートルほど上流に、二人の子供がいました。
遠目でしたが、たぶん小学生くらいだったと思います。
この子達を探しています
村の小学校は廃校になっているような所だったので、この村にもあんな小さい子がいるんだなぁと思いつつ、私はその子供達を眺めていました。
程なくして彼らは川を上って行きましたが、私がモリ突きをしていた場所は、その川でもかなり上流の方で、来る時も車で山を登って来たほどでした。
親御さんたちが上に居るのかな?と考えながら、私も帰り支度を始めました。
そして荷物を置いてある木陰で着替え等をしていると、一本の木に少し古ぼけた張り紙がありました。
張り紙には写真がプリントされており、ラミネート加工がしてありました。
写真は、母と思われる女性が子供二人と並んでいました。
その下には『この子達を探しています』と一行あるのみです。
その張り紙を見て気味が悪いと思ったのは、写真のせいでした。
写真の女性の顔の部分はマジックか何かで黒く塗り潰されており、子供二人の顔はヤスリをかけたように薄くぼやけていました。
僅かに確認できる子供の髪型が、先ほど見かけた子供と同じ坊主頭だったので、余計に気味が悪く感じてしまいました。
私は急ぎ足で祖父の家まで帰り、祖父に張り紙のことを聞いてみましたが、「何も知らない」とのことでした。
小さな村なので、子供達がいなくなったりしたら耳に入るはずなのですが・・・。
その張り紙を見た翌年、少し遅めの正月の挨拶をしに祖父の家を訪れました。
酒を交わしながら祖父と話していると、件の張り紙の話になりました。
そして祖父が「お前が言うてた張り紙みたいなん見つけたんで取っておいたで」と言って、一枚の張り紙を差し出してきました。
どうして取っておく必要があるのか?とは思いましたが、私も好奇心があったのも事実だったので、また拝見しようと受け取りました。
一目見て、前回見た張り紙との変化に気付きました。
なぜなら、『この子達を探しています』と書いてあるの文字の上に、赤い字で『見つかりました』と上書きされていたからです。
あまりの気味の悪さに、張り紙は知り合いの寺の方に無理を言って預けました。
これを一人で取ってきた祖父の鋼の精神力にも恐ろしさを感じましたが・・・。
イタズラにしてはあんな人気のない場所でする必要はありませんし、かといって本当に人捜しだとしても、山奥の一本の木だけに張り紙をするのもおかしなものです。
特に実害はありませんでしたが、あれは何だったのか?と、今でもたまに思い出しては鳥肌が立ちます。
(終)