留学先の米国で肝試しをしてみたら

廃墟

 

アメリカに語学留学していた時の話。

 

ホームステイ先の年上のジョン(仮名)

と仲良くなって、

 

休日は大抵ジョンと買い物やゲームをして、

暇を潰していた。

 

ジョンは車を持っていたので、

色々なところに連れて行ってもらえた。

 

ジョンは日本の文化に興味があったようで、

事あるごとに色々と訊いてきた。

 

ある夏の日にジョンが、

 

「日本の夏ではどんなことをするの?」

 

と訊いてきたので、

 

「泳いだり、スイカを食ったり、

花火をしたり・・・

 

あと、肝試しとかね♪」

 

と言うと、

肝試しに興味を持ったようで、

 

「なんだソレ?」

「何故、夏の文化なんだ?」

「どんなことをするんだ?」

・・・・・・

 

と、色々しつこく訊いてきた。

 

だから、

 

「夜に幽霊が出る廃墟に行ったりしない?

そういうのも肝試しだよ」

 

みたいに説明した。

 

するとジョンは、

 

「じゃあ今夜その”肝試し”をしようぜ!」

 

と言い出した。

 

そして、その日の夜10時頃、

郊外の廃墟へ行くことになった。

 

その廃墟は、

家から車で15分ほどの距離にあり、

 

数ヶ月前から廃墟らしく、

 

外から見ると小奇麗だが

庭などは荒れており、

 

それなりの雰囲気が出ていた。

 

ジョンがマグライトをSWAT風に持ち、

その廃墟の入り口の戸に手をかけた。

 

入り口は案の定、閉ざされていた。

 

面白くなさそうに、

 

ジョンは窓が開いていないか

チェックをし始めた。

 

すると、

 

一つの窓が開いていたので、

そこから侵入することになった。

 

ジョンが先に中へ入ると、

ベランダのドアを開けてくれた。

 

中は外見よりさらに綺麗だった。

 

廃墟なのか?とも思ったが、

 

生活感のある物品が、

乱雑に放置されている。

 

売り出し中の物件・・・

というわけではないだろう。

 

侵入したリビングから玄関に出た。

 

洋画でよくあるような、

吹き抜けの建物だった。

 

「さて、これからどこを見ていくか」

 

と言った矢先、

奇妙な音がした。

 

『カシャ、カララララララララ、カチャ』

『カラララララララ、カチャ』

『カラララララ、カチャ』

 

俺が「?」と辺りを見回すと、

その音は階段の上から聞こえてくる。

 

近くにいたジョンを見ると、

 

ジョンも「?」といった顔で、

階段の上にマグライトを向けていた。

 

『カシャ、カラララララララ・・・

ラララララ・・・カチャ』

 

また音がした。

 

するとジョンが「逃げるぞ!」と叫び、

リビングへと走った。

 

俺も、その後を追った。

 

ベランダから外に出て、

庭から車まで走った。

 

・・・すると、

 

頭の後ろの二階の窓が、

ガラッと開いた。

 

『カララララララララララ、

カチャカチャ』

 

『カララララララララララ、

カチャカチャ』

 

ジョンは振り返ることもなく、

車に飛び乗った。

 

俺が助手席に飛び乗ると同時に、

 

ドアを閉める猶予も与えず、

車は急発進した。

 

ジョンは凄いスピードを出して、

10分ほどで家に着いた。

 

部屋に戻って落ち着きを取り戻したジョンに、

俺は何を見たのか訊ねた。

 

「2階に男がいた・・・」

 

ジョンは、そう答えた。

 

何故あんなに必死になって

逃げる必要があったんだと訊くと、

 

ジョンは少し頭を抱えて考えた後、

部屋から出てあるものを持ってきた。

 

ジョンは父親のリボルバーを持ち、

 

弾倉に弾丸を込める真似をして

『カシャ』っと弾倉を戻し、

 

弾倉の横を弾いて『カララララ』

と音を鳴らせた。

 

そして、無言で『カチャリ』

と引鉄を引いた。

 

撃鉄が空の弾倉に勢いよく叩きつけられ、

『カチャ』っと音がした。

 

その男が何をしていたのかは、

もう聞くまでもなかった・・・

 

「空砲だったんじゃ?」

 

とジョンに訊いたが、

 

マグライトで照らしていた時、

弾丸を込めるのが見え、

 

その銃口がこちらに向けられたので叫んだ、

・・・らしい。

 

もしかしたら空砲だったかも知れないし、

俺達を狙っていなかったかも知れない。

 

だが、もし本当に銃弾を込めていて、

俺達を狙って引鉄を引いていたとしたら・・・

 

ジョンは一言だけ呟いた。

 

「車を走らせ出した時、

 

あの家から銃声が鳴ったのに

気付いていたか?」

 

それから二度とその廃墟(?)に、

近づくことはしなかった。

 

日本の文化を堪能してもらうつもりが、

とんだ肝試しになってしまった。

 

(終)

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