バアちゃんが幼少の頃に体験した話
これは母方のバアちゃんから聞いた、
バアちゃんが幼少の頃に体験したという話。
バアちゃんは3人兄弟の末っ子で、
兄と姉がいた。
兄とバアちゃんは元気そのものだったが、
姉は生まれつき身体が弱くて、
毎日病床に伏していた。
衰弱のせいか声も出にくい為に、
用があると家族の者を、
鈴を鳴らして呼んでいた。
しかし両親は共働きで日中は家におらず、
姉の面倒は妹のバアちゃんがしていた。
看病と言っても、
幼少の為に出来る事は大した事がなく、
水や食事を運ぶ程度の事だったらしい。
姉の病状は回復の兆しも見えず、
身体は痩せ細り、
目は窪み、
それはまるで死神のように見えたそうだ。
そんなある日の事。
姉が震えるか細い声で、
病床から兄に向かって言った。
「お水・・・ちょう・・だい・・・・」
それに対して兄は顔をひそめて、
「やーだよ。
ボクはこれから遊びに行くんだから」
と言い捨てて、
さっさと家を飛び出してしまったらしい。
姉はその言葉がショックだったんであろう。
顔を歪めて憎々しげに、
その姿を目で追っていたらしい。
そして、
今度はバアちゃんに顔を向けて、
「○○ちゃん・・・お水・・ちょう・・だい・・・」
バアちゃんはその歪んだ姉の表情に、
突然恐怖心が込み上げてきたらしく、
「わ、わたしも遊びに行ってこよー」
と逃げ出そうとしたその時、
恐ろしい力で腕を掴まれて、
「死んだら・・・恨んでやる!!」
と言われた。
バアちゃんは泣きながら
「嫌だーっ!」と腕を振り解いて、
外へ走り逃げてしまった。
バアちゃんはその日を境に、
姉に近づく事なく過ごし、
数週間後に姉は他界してしまった。
それから数日後。
バアちゃんが部屋に一人で
居た時の事。
チリンチリン・・・
と何処からか、
鈴の音が聞こえてきた。
バアちゃんはビクッとしながらも
恐る恐る振り返ると、
恨みのこもった目でこちらを見る、
姉が立っていたそうだ。
それからというもの、
バアちゃんが一人きりの時に姿を現しては、
姉は恨みの視線を送り続けてきた。
しばらくの間は、
バアちゃんも一人で耐えていた。
それというのも、
姉は自分が水をあげなかった事が
原因で死んでしまった、
と後悔していたからだ。
しかし、
あまりの恐怖に根を上げた
バアちゃんは親に泣きつき、
水をあげなかった懺悔を悔いて、
全てを話した。
それを聞いた母親は、
「あなたのした事は酷い事だけれど、
それが原因でお姉ちゃんは
天国へ行った訳じゃないのよ。
お母さんがお姉ちゃんに話してあげる」
と、抱き締めてくれたらしい。
その夜、
バアちゃんを部屋に一人にした母親は、
隣の部屋でじっと、
姉が現れるのを待っていた。
チリンチリン・・・
その時、
母親にも鈴の音が聞こえたらしい。
バアちゃんの悲鳴と共に部屋へ入り、
「●●ちゃん(姉)、
もう○○(バアちゃん)の事を
許してあげて。
決して●●ちゃんの事が憎くて
水を渡さなかった訳じゃないのよ。
好きだけど怖くなっちゃったんだって。
それも全部、
●●ちゃんを置いて仕事していた
お母さんが悪いの。
だからこれからは私のところへ
出てらっしゃい」
そう叫んだらしい。
それからというもの、
姉は出てこなくなった。
バアちゃんも姉が許してくれたんだと思い、
私に話を聞かせてくれたんだと思う。
そんなバアちゃんが一年前、
心筋梗塞で亡くなった。
心よりご冥福をお祈りすると共に、
私しか気づいていないかも知れない、
親族にもしていない話を追記する。
バアちゃんが亡くなったのは、
バアちゃんから聞いていた
姉の命日と同日。
そして亡くなったバアちゃんの腕に、
手形らしきアザがあった。
何故、今頃になって・・・
それはバアちゃんが亡くなった今、
知りようもない謎となった。
(終)