耳を塞いでうずくまっていた母 2/2

玄関

 

近づいている俺の存在に

気づいたそれは、

 

この後、もの凄い勢いで

玄関をノックし始めた。

 

コンコン!

コンコンコン!

 

コンコンコンコンコンコン!

コンコンゴンゴンゴンゴンゴン!

 

ガシャンガシャンガシャン!

ガシャンガシャンガシャン!

 

ほんと凄かった。

 

玄関のガラスが割れるんじゃないか

ってくらいの勢いで叩き続けている。

 

本当は、すぐにでも

逃げ出したかったんだけど・・・

 

動けなかった。

 

怖くて。

 

真っ赤な人影が凄い勢いで

玄関を叩いているんだ。

 

ガシャンガシャンガシャン!!

 

あれにはマジでビビって、

足が竦(すく)んじゃった。

 

いい大人なのに・・・

 

だけど、

ずっとその場には居られない。

 

怖いから。

 

だからなんとか気を張って、

その場から離れようとした。

 

ただ、こういう時って、

不思議と駆け出せないんだ。

 

たぶん相手に気づかれないように

って考えが働くからなんだろうけど、

 

(すでに気づかれていますが・・・)

 

ゆっくりと、ゆっくりと、

後ろに下がっていったんだ。

 

すると、

人影にちょっとした変化があった。

 

最初に見た時とは違って、

背が高くなっているような気がする。

 

けれども、

 

ノックをする腕は、

さっきの位置とは変わっていない。

 

背が高くなっているのではなくて、

伸びているんだ。

 

頭が。

 

首が伸びているのではなくて、

 

ほんとに頭だけが上に向かって

伸びていっている。

 

そんな感じがした。

 

そしてその伸びた頭は、

 

徐々に玄関の上にある小窓に

近づいていってるんだけども、

 

この小窓が運の悪いことに、

 

明かりを入れる為の窓なもんだから、

曇りガラスではないんだ・・・

 

だから、

 

その小窓に近づいているのが

分かった段階で、

 

人影から目を反らすべきだったんだ。

 

・・・本当は。

 

けれども、

目が反らせなかった。

 

怖くて逆に、

目を反らせなかったんだ。

 

そして見ちゃったんだ・・・

真っ赤な人影の顔を。

 

小学校低学年くらいの子供で、

真っ赤な顔。

 

髪と眉は無かった。

 

印象的だったのは、

 

だらりと開けられた真っ黒な口と、

カッと見開かれた目。

 

その目でギョロギョロと、

家の中を見ているんだ。

 

それを見たら限界だった。

 

いい大人が大声で喚き叫んで

駆け出していた。

 

居間に逃げ込んで、

 

お袋と一緒に耳を塞いで

ガタガタ震えていた。

 

どれだけの時間、

 

耳を塞いでうずくまっていたのか

分からない。

 

「おい!どうした!!」

 

と、突然肩を掴まれて起こされた。

 

仕事から帰ってきた親父だった。

 

「親父かよ!!

ビビらせんなよ!!」

 

「なにがビビらせんなだ!

ビックリしたのはこっちだ!

 

どうしたんだ、

 

二人して電気も点けずに

部屋の中で!?」

 

いきなり声をかけられて

ビックリはしたが、

 

帰ってきた親父の顔を見て、

正直ほっとした。

 

そして思わず訊いてしまった。

 

「親父、一体どこから家に

上がって来たんだ?」

 

・・・と。

 

(終)

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