小さな好奇心が招いた僕の命の終わり 1/2
恐らく僕は、
もうすぐ死んでしまうでしょう。
きっと心臓麻痺か何かで。
でも、病気ではないのです。
僕は殺されるのです。
理由を話したところで、
誰も信じてはくれないでしょう。
・・・それでも、
ここに僕の死んでしまった本当の理由を
書き残しておきます。
僕と同じような目に遭わないように・・・
僕の住んでいた部屋は、
窓から見える所に踏切がありました。
毎年二人はそこで亡くなります。
いずれも自殺です。
基本的に僕は夜型の生活なので、
滅多に遭遇することはなかったのですが、
運が悪い時には散らばった肉片を
見かけることもありました。
もちろん、
そういうものは見たくありません。
しかし、直接的ではない、
いわゆる霊的なものは好きな方で、
夜出かける時などは、
“幽霊に出会わないかなあ~”
とワクワクしながら、
その踏切を渡ったりしていました。
しかし、二年以上経っても、
そういった類の事に出会うことは
ありませんでした。
そして、
3週間前のバイトを辞める日の事。
同僚たちから花を貰い、
飲み会などを終えて自宅に帰る途中の
件の踏切の手前で、
『自殺スポットに置いてある花束は、
自殺者を呼び込む』
・・・という、
出所のハッキリしない記憶が
蘇ってきました。
せっかく同僚たちがくれたものですが、
家に持ち帰ってもおそらく捨ててしまうだけ。
それならばいっそ・・・と、
踏み切りの横にそっと置いて帰りました。
その晩は何となく寝付けず、
朝方になっても目は冴えたままでした。
そして、なんとなく・・・
本当に何となく窓の外に目をやると、
鮮やかな青色のジャンパーを着た
50歳くらいの男が、
踏切の辺りでウロウロしていました。
まさかな・・・と思いながら
その行動を目で追っていると、
カンカンカンカンと耳慣れた音と共に、
遮断機が降りていました。
振り返って時計を見ると、
ちょうど始発の電車がやって来る頃です。
窓の外に視線を戻すと、
男は足を止めて僕の置いた花束を
じっと見つめていました。
段々と電車が近付いて来ます。
男は視線を足元に落としたままです。
僕の心臓の鼓動が早くなります。
電車はもう、
すぐそこに迫っています。
僕は男から目を離せません。
電車が十分に近付いたところで、
男は遮断機をくぐり、
線路の上に立ち、
こちらを見上げました。
男と僕は目が合ってしまいました。
その時、「オマエガ・・・」と言う声が、
耳元で聞こえたのです。
そして次の瞬間、
男は電車に吹っ飛ばされ、
視界から消えていました。
僕は恐ろしくて振り向くことも出来ません。
きっと幻聴だ。
昨晩、あんな事をしたから
聞こえた気がしただけだ。
そう自分に言い聞かせながら、
ゆっくりと後ろを振り向きました。
そして思った通り、
そこには何もありませんでした。
・・・ただ、
なんだか鼻を突くツンとした臭いが
一瞬したような気はしましたが、
その時はあまり気にしませんでした。
しばらくの間をボーっとしていると、
パトカーや救急車の甲高いサイレンが
聞こえ始めました。
これから数時間、
警察などが慌しく作業を行うはず・・・
こういう場合は、
目撃者として名乗り出るべきなのでしょうが、
正直なところ、
面倒事には巻き込まれたくないという思いで、
黙っていることにしました。
きっと目が合ったというのも、
僕の思い過ごしだろう・・・
と決め付けることにしました。
凄い光景を見たことを友人に報告しようと
携帯を探していると、
ゴトッという何かが落ちる音が、
玄関の方から聞こえてきました。
何が落ちたんだろうと扉を開けると、
お気に入りの靴の横に“男”が落ちていました。
正確に言えば、
男の首と足と、
どこだか分からない欠片です。
僕はそこで気を失いました。
次に目覚めた時には、
玄関に男の欠片はありませんでした。
ただ、ツンとした臭いだけが
周囲に漂っていました。
僕は財布と携帯だけを持って家を飛び出し、
近所の友人の家に転がり込みました。
しかし、事情を説明すると家にいるのを
嫌がられてしまうかも知れないので、
今日はバイトも辞めて暇なので、
遊び相手を探していたことにしました。
そうして一晩、
その友人宅に泊めてもらおうと
考えていましたが、
夕方になってくるとあのツンとした臭いが
部屋に立ち込めてきました。
とりあえず人気の多い場所へと思い、
24時間営業のファミレスへ行こうと
友人に提案しました。
そうしてファミレスに行くことになったのですが、
どうせならということで、
他にも友達を数名呼ぶことになりました。
人間というのは不思議なもので、
沢山の人に囲まれると安心してしまうのか、
30分もすると、
とてもリアルで生々しかった今朝の体験を、
実は自分が作り出した幻覚なのではないか、
と疑い始めました。
そして、3時間も経った頃には
すっかり今朝のことは忘れ、
友人たちと馬鹿話に花を咲かせて
楽しく笑っていました。
・・・しかし、
僕たちの席に来るウエイトレスの様子が
おかしい事に僕は気付きました。