そのホテルには鍵が無くなる部屋がある
ある夏の日、俺は友人らと4人で旅行に来ていた。
1日目はホテルに泊まることになり、部屋割りは2対2に分かれることになった。
そして夕食を済ませ、皆で大浴場に行く。
大きな部屋番号の飾りの付いた鍵は、脱衣所のカゴに自分の服で隠すように置いていた。
風呂から上がり着替えていると、鍵が無くなっている事に気付いた。
俺達の部屋もその一つだった
アクセサリーなど他の物が盗られなかったのは良かったが、内心は「鍵だけ盗まれるのは気持ち悪いなぁ」 と感じつつ、ロビーの受付までその旨を報告した。
受付のスタッフは慣れた対応で、謝罪しながら合鍵を渡してくれた。
俺達は部屋に戻り、談笑したりトランプをしたりして時間を潰した。
いい時間になり、床に就いたのは深夜2時をまわっていた。
浅い眠りについた頃、部屋の鍵が開く音で目が覚めた。
すぐ隣のベッドには友人が眠っているので、俺達の他の「誰か」というのはすぐに分かった。
起き上がり対応しようと思ったが、「知らない人が入ってくる」という怖さとめんどくささで、ベッドで寝たフリをすることにした。
薄目を開けて待っていると、外の廊下からの明かりでベッドルームの入り口の角に、何者かの”頭の影”が確認できた。
その影はスーッと、俺の目と鼻の先1センチぐらいまで近づいてきた。
さすがに「人ではない」と確信し、寝返りを打つフリで、逆の方向(友人の方)を向くことにした。
すると、その影はベッドをコの字に回り、また近づいてきた。
俺は、もう完全に目を閉じてしまっていた。
数秒後、「もう消えていてくれ」と願いながら薄目を開けると、友人にも顔を近付けていた。
しかし、その影は急に俺の方を向いたので、はっきりと目が合ってしまった。
そして、見つめられたまま近寄ってくる。
もう目は閉じられなくなっていた。
影にしか見えなかった顔の部分が、はっきりと確認できる。
その顔は無表情で、目は見開いている。
いつの間にか気を失っていたらしく、気付いたら朝になっていた。
起きてすぐに部屋の鍵を確認したが、しっかりと閉まっていた。
隣で寝ていた友人は、昨夜の出来事には気付いていなかったらしい。
そのホテルにあと3泊するつもりだったので受付のスタッフに問いただしたところ、鍵が無くなる部屋は決まっているらしく、俺達の部屋もその一つだった。
霊能力者によると、見つめるだけの霊は語りかけてくる霊よりも危険度は低いというが、どちらにしろ表情が無いというのは恐ろしかった。
2日目からは部屋を替えてもらい、事無きを得た。
もし出先で鍵が不意に無くなった場合、あなたもどうぞ気をつけて下さい。
(終)